夜の帰り道

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夜の帰り道

 ふらふらと揺れる視界が、とにかく気持ち悪い。気を抜けば吐きそうだった。しかしそこは昔なじみの前だ、恥をかくわけにはいかない。支えてくれる腕につかまり、ガジュは石畳を千鳥足で歩いていた。 「ひゃはは、視界が回るぅ空が揺れるぅ」 「ちょっとガジュ、君飲み過ぎだよ。完全にふらふらじゃないか」  幼い頃からの友人であるレチッタはこんなときも真面目だ。成人祝いの酒だというのに、酒場でも帰りのことを心配して一滴たりとて飲もうとしなかった。とはいえその生真面目さが、今のガジュの助けとなっているのだが。 「うーん、俺の幼馴染が冷たい・・・・・・いつもはもっと熱烈に求めてくれるのにぃ」 「誤解を招く言い方しないでくれるかな」 「合ってるだろぉうへへへへぇ」  呂律が回っていないのは、ひどい耳鳴りと関係がないだろう。自身の泥酔状態をぼんやりと把握しつつも、だらしのない笑い声を止められなかった。  目の前はどんどん霞んでいく。点状の明かりと平たい闇が交互に現れては消え、ガジュの感覚を狂わせていった。もう自分がどこに向かっているのかも分からない。曖昧な感覚の中で、レチッタのゆっくりとしたつぶやきだけが聞き取れる。 「半分くらいしか合ってないよ。昔、ひとりで勝手に村の外まで歩いていって迷子になったのが怖いだけさ。後は、単に家が隣だから学校も同じってだけで」 「はははぁ。お前あの時、こっそり泣いてたもんな。皆の前では平気なふりしてたけど」 「恥ずかしいこと思い出させないでくれる?」  酔っているせいか、いつもよりも口が軽い。我慢しようとしても漏れ出る笑い声のように、ガジュはぺらぺらと喋る。それを呆れ顔で聞きながら、レチッタがため息をついた。 「ガジュ、ほんとに飲み過ぎだってば。どうしたの、普段そんなに大食でもないのに竜祝酒とか何杯も飲んで」 「えぇ、なんでだろなぁ」  怪訝そうなレチッタの問いに、ぼんやりと応答する。19歳の成人を迎えた途端、日頃とは真逆なほどに酒をあおった理由が、ガジュの中にはっきりとあったわけではない。何となく、という言葉に終止するほどのくだらない感情だ。  ただ、強いて言うなら──酒を飲める年齢になる前に死んだ、前世のことが引っかかっていたのかもしれない。
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