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最初の質問
その日から、ガジュの日常は一変した。常にガラスの中に閉じ込められ、両手を拘束されている。足と首にも枷をつけられ、終いには自分の力だけでは立ち上がることもできなくなった。
ブルギィは、ガジュに対して奇妙な質問を繰り返した。レチッタを情報源としたのか、ガジュが前世の記憶を有している、いわば転生者であることを知っていた。それに関することばかりだった。
「前世では、お前は何と言う名前だった?」
ガラスのドームの前に立ち、クリップボードを手にしたブルギィが問う。枷の位置を利用して強制的に体を起こされたガジュは今、無理やりブルギィの方を向かされている状態だった。せめてもの抵抗に視線をそらすが、代わりに凝視した先にも彼の顔が割り込んでくる。
ぎょろりとした眼の中で、黒目だけが異様に大きい。加齢で骨ばった顔面の中で爛々と光る瞳が、どこか人ならざるものを連想させた。
「知らねぇよ。勝手に想像しとけばいいんじゃねぇの」
ぶっきらぼうな返答は、主導権を握られている今となっては危険でしかない。それを分かっていなかったがゆえの答えだった。
ガジュが言い終わると同時に、ブルギィは顎の下に手をやり、しばらくの間考え込む。そして何を思いついたのか、不意に白衣のポケットの中からボタンがいくつもついた大仰な板を取り出した。
薄い長方形のそれは、前世で半分ネット依存だったガジュにとって、画面いっぱいにボタンがついたタブレットのようにしか見えなかった。ごつごつとしたシルエットが不気味なそれのうち、端にある赤いボタンをブルギィは無造作に押す。
途端に焼けるような激痛が全身を襲い、ガジュは反射的に背を反らしながら絶叫した。視界にちかちかと火花が散り、体中の血管が煮えたぎる。逃れられない苦痛が全身の皮膚にべったりと張り付いているようだ。
苦悶の時間は数秒程度だったのだろうが、ガジュには数十分ほどにも感じられた。ようやく激痛が収まってきたときには、荒い呼吸を繰り返しながらひどく震えていた。
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