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ようやく激痛から解放されたガジュは、いまだに茫然自失としていた。正常な呼吸と規則正しいゆっくりとした心拍数を取り戻すのに必死だ。空気で気道を削るように激しく息を吸い、吐いていた。
顎から喉、終いには胸板まで垂れる自信のよだれも気に止めていられない。限界までかっ開いた両眼の痛みよりも、未だ全身の末端に残る痺れよりも、先程の数分が堪えていた。
それに、いつしか視界が暗くなっている。頭が重く、聞こえる声がくぐもっていた。
「新たな機器の装着に乗じて逃げられるとでも思ったか?馬鹿め。言うことを聞かない獣の治療には麻酔を使う、それと一緒だ。調教も兼ねられる、良いやり口だ」
ブルギィの嘲笑いも、ろくに意味を理解できなかった。だが、内容を咀嚼せずとも意図は十分すぎるほどに伝わっている。支配下に置くための真の鎖は、手足を縛る枷ではなくこの苦痛と恐怖だ。動物的本能が、この男に従うべきだとガジュに叫んでいた。
恐怖は忘れずとも、わずかな理性だけ戻ってきた頭は再度動き始める。
今のボタンを押して抵抗の意思と自由を奪う間に、さっきレチッタに持たせていたあの筒上の金属をかぶせた。わざわざ麻酔がわりに失神しかけるほどの痛みにさらしたのは、服従させるためだけではないだろう。博士が、麻酔という言葉を使っていたのを思い出す。
ガラスの壁は、この機器の装着のために一度開いたに違いない。
「人間ひとり分の人生は、膨大なデータとなって記憶されている。前の生涯を全て記憶しているのだな?だから、前世を覚えているという話になるわけだ」
言いながらブルギィは口の端を舐め、ますますにやついた。
「私が発明した、全ての記憶を一度に読み取る装置。作り上げるのに数年かかったが、逆にその程度で完成したことを褒め称えたいくらいだ」
暗い。音は聞こえるのに、機器の内側のざらついた感覚は感じるのに、鉄臭い錆びた匂いは分かるのに。
視界だけが、暗い。何も見えない。それに頭をすっぽりと覆うこの機器が、だんだんきつく締め付けてきているような気がする。
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