最初の質問

4/4
前へ
/16ページ
次へ
 『それ』は、突然にして急速に始まった。前世での記憶が目まぐるしく脳裏に浮かび、新しい記憶に塗りつぶされていく。鈴木大翔としての自分の人生が、早送りの走馬灯のように濁流となって押し寄せる。  一方で、未だ耳だけは正常に働き、機器の外の音を拾っていた。嬉しそうな声が、記憶の波と共にぐわんぐわんと脳裏を揺らす。 「素晴らしい、素晴らしい!生誕の瞬間から今に至るまで色褪せることのない前世の記憶、それがお前の人格を作り上げている!本当に運が良かったよ。お前みたいなお誂え向きの実験台を見つけられるなんて!」  歓声に等しい大声が鼓膜を否応なしに揺すぶる。頭が痛い。神経がやすりで擦られているような激痛。 「転生者、なんてすばらしい響きだ。この世に生を受けたときから後天的な環境や教育にいっさい影響を受けないひとつの確立した個。成人並の明確な意思と自我、そして出どころの分からぬ記憶を持ち、その妄想にも近い記憶に従ってすべての価値観や観念が定められている、いわば脳内にあるもうひとつの人格ではないか!」  恍惚とした表情で、ブルギィは語り続けている。だが、その顔をガジュが見ることはない。自身のあまりにも膨大な記憶にのまれて、海馬が破裂しそうだった。脳髄が震え、ガジュは無意識に白目を剥きながらがくがくと頭を振動させた。  うるさい、もうやめてくれ。頭蓋が削れる。内側から爆ぜそうだ。  己の中で渦巻く過去が、より一層激しくうねる。頭部に装着された釣り鐘型の機器にそれらの全てが吸い尽くされていき、締め付けられる後頭部は割れんばかりに痛んだ。  脳裏が情報過多に震え、光景が網膜に叩きつけられ、音が聴覚をこじ開ける。今昔が混在し、海馬が激しく暴れる。  押し寄せる記憶の多量さに、ついにガジュの頭と精神は限界を迎える。意識がゆっくりと、眠るように消えていった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加