赤い糸

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 聞いてやればあの小僧は、なんでも答えてくれた。名前、家族、交友関係。その中で彼が告白した友人の秘密が、最大の収穫だった。口をつぐんだら強制的に吐かせればいい、それだけだ。  求めていた実験体について聞き出すのには、たいして専用の器具など使わずに済んだ。人間、やはり原始的な方法が一番だ。  前世というこの世ではありもしないものを記憶し、それに縛られて生きる青年。  人に自分の思想を植え付けて蝕む私のやり方とそっくりだ。神がその男に付したもうひとつの意思を、その作り方を盗めば、私は遂げられる。この望みを、欲望を。 「ふふふ、ところでモルモット、気づくことはないか?お前の『症状』と、私の専門分野の共通点に」  冷めやらぬ興奮に包まれながら、ブルギィは声高く笑った。苦しげに呻き続ける実験体に聞かせてやろうとするかのように、ざらついた笑い声が室内を埋める。   強い自己陶酔感に溺れ恍惚としながら天をあおぎ、ブルギィは限界まで口の端をつり上げた。そのまま泡を撥ね飛ばして早口で叫ぶ。 「後天的な教育環境の汎ゆる関与を跳ね返す、強固な意思。本来あるべき人格を抑制しその上に成り立つ他の自我。誰も信じぬ世界を明確に信仰し続ける、ある種敬虔な姿。我々を邪な者とのたまう連中は、それをこう表現するんだよ!」  ──洗脳、と。
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