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「なぁ、レチッタ。お前はもう、勝手にいなくならないでくれよ」
「何言ってるのさ。ガジュは心配性だな」
こんな酔っぱらいの戯言にも付き合ってくれる。本当にレチッタは優しい、ふわふわとする思考でそう思った。どんなときでも、いつも傍にいてくれた一番の友人。
だからこそ、そんな言葉を吐いてしまったのかもしれない。前世の自分と同じように、あっけなく消えてしまうのが怖いから。
それに彼は一度だけ、本当に姿を消してしまったことがあったのだ。2年前に行方不明になったレチッタはその半月後、村に戻ってきた。全身に大怪我を負って。
「俺は忘れないぞ。あん時のお前のこと」
レチッタに聞こえたかどうかも分からない。だが、彼の耳に届く必要はなかった。これは俺なりの宣戦布告だ。同時に、幼馴染みを誰かに傷つけられたことへの怒りを、大切な人を失う恐怖を、決して記憶からなくさないという宣言でもあった。
「何か言った?」
「いや、なんも言ってねぇ」
「そう。でもさっきからうわ言みたいにぶつぶつ言ってるし、やっぱり酔ってると思うんだけど…僕が背負うから、寝てて構わないよ。家まで送ってく」
「いやぁ、そこまでしていただかなくても」
レチッタの思わぬ申し出を、ガジュはやんわりと拒否する。そこまでしてもらうのはなんだか気恥ずかしいし、みっともない。しかしそれよりも、大きな理由がある。
村でも変人として有名な、ブルギィの旦那のところを通らなくてはいけないからだ。そしてガジュには、レチッタをブルギィの旦那に近づけたくないとある理由があった。
2年前のことを、未だに怪しんでいるからだ。
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