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二年前
冷たい冬の風が、身を打つ頃だった。今よりもわずかに幼いガジュは、茜色の空の下を全速力で駆けていた。
声なんてとうに枯れている。視界はぼんやりと霞み、上半身が時折危なげにふらついた。何度かつんのめるが根性で起き上がる。母に無理やり持たされた昼飯が功を奏しているようだった。
幼馴染みのレチッタが、街に行く用事があると言って村を出ていってから半月。夜になっても帰ってこない彼を探して一時は村中総出で彼を探したが、10日も経った今、手がかりひとつ見つけられないせいで人々の捜索の足は止まっていた。
レチッタの両親や親しい者は未だ諦めていないが、大多数はその限りではない。
あいつもこんな辺鄙な村から出たい年頃だろ。それかもしくは、好いた女と駆け落ちでもしたか。
そんな風にからかってくる大人もいたが、ガジュは必ずしもそうだとは思えなかった。レチッタが何も言わずに出ていくような性格ではないと、確信していたのもある。だがそれ以上に、どうしてもガジュは心中の不安を拭いきれなかった。
人は、存外簡単に死ぬ。1時間後の予定を決めていても、友人と明日の約束をしていても、大切な人と未来の契りを結んでいても。予想外に訪れる終焉は、全ての予想と将来を断ち切ってしまう。それを常に実感している人間がどれほどいるだろうか。
息をきらしながら立ち止まり、再び周囲に目を走らせる。真っ赤な夕日が、どこまでも世界を照らし出していた。
「レチッタ、どこだよ。どこにいんだよ」
弱々しい声は、泣くかのように語尾が震えていく。見知らぬ地域の知らない場所だ。町村からは離れているらしく、近くに人の姿はない。不揃いな高さの草木が生い茂る草原が、視界の端から端まで広がっている。
来た道を示すように、自分の通ってきた場所は草が薙ぎ倒されていた。獣道を思わせる道は、縦横無尽となりガジュの背後でうねる。
もう、探し尽くしたのではないかという思いが胸中に去来した。しかし、ガジュは頭を振ってその考えを追い払う。
やっぱり、ブルギィの旦那のところが怪しいのではなかろうか。城下町の貴族だったが、他人を思いやらない性格で追い出されたと聞く。確か、違法なことにも手を染めていたという噂があったような気がするが。
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