目覚めたときには

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目覚めたときには

 視界に光が差して、目蓋の裏の暗闇がぼんやりと照らされる。意識を取り戻すと同時に、戻ってきた体の平衡感覚が警鐘を鳴らした。  ガジュは、知らない床の上で仰向けになって横たわっていた。背中の下に何かがあり、背筋が浮いている。ついでにいえば両手が動かなかった。  ガジュは両の手を後ろ手に縛られ、仰向けに転がされていた。背中を浮かす何かというのは己の拘束された手だ。理解すると同時に、一瞬にして腹の奥が冷える。  勢い良く起き上がったものの、ガジュは眼前の光景に面食らってしばし硬直した。ガラスのドームを思わせる、透明な壁がガジュを包む。ガジュのいる場所から半径2メートルくらいでその透明な壁は途切れ、そしてその向こうには見知った顔がひとつ。 「レチッタ・・・・・・」  今までの彼とはあまりにも違う、表情のない瞳がガジュを眺めていた。前世で一度だけ見たことのある能面を思い浮かべる。 「おいレチッタ、聞こえてるか。ここどこだよ。なんで縛られてるんだ?そっち側にいるならなんとかなるだろ、助けてくれよ!」  パニックに襲われ、ガジュは無我夢中で声を荒げる。足は縛られていない。気づくやいなや走り出し、体当たりする勢いでガラスの前に駆け寄った。頭から壁にぶつかったが、じんじんと痛む額を気にする余裕はない。  無言で表情すらも変わらない幼馴染みの存在が、ガジュの焦りにより一層拍車をかける。 「レチッタ、おいレチッタ聞こえてんのか?!返事くらいしろよ。どうなってんだよこれは!」  焦りが募る。不安が膨らむ。恐怖が倍増していく。もしや、レチッタは自分の敵なんじゃないか。ガラスの向こうにいるってことは、そういうことなんじゃないだろうか。  内側からどこまでも引きずり込まれるような感覚が体を支配していく。だが、悪い予感は止まらない。 「お目覚めの気分はどうだい、なんて聞くのは陳腐かな。聞かずとも囚われた小鳥の心中は分かる。混乱と不安、そして未知への恐怖だろう」  しわがれた声が、不意にガジュの叫びを遮った。声の主を追って視線をそちらに向けると、白衣に身を包んだ老年の男が立っていた。的中してほしくなかった予感が、完璧に当たってしまった。その恐怖にぞっとする。同時に怒りがこみあげてきた。   「・・・・・・ブルギィの、旦那」  思わず声が震えた。
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