目覚めたときには

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 焦点の定まらぬ両眼にレチッタ自身の意思はなく、無表情の顔に浮かぶ感情は虚無だ。動き自体は制限されていないように見えるが、その内側までは分からない。  レチッタに何をした。そう問いたかったが、恐らく正しいと思しき真実がさらに心中に染み込んでいく。  先程、ブルギィは人格を作り変えると言った。しかし人格とは、この年頃には完全に確立され、揺らぐことのない個を保っている。では、完成した既存の物を作り変えるにはどうすればいいか。  答えは単純だ。まずは壊せばいい。  レチッタの虚ろな目の奥に、意思は読み取れなかった。それどころか、さっきからぴくりとも言わずに立ち尽くしている。曲がった指先が彼の全身がほとんど弛緩しきっていることを示していた。  立つ足と腰以外が脱力している。意識があるかも疑わしい。  自分だけでなく友人までもが、絶望的な状況下にあった。彼をどうにかできるのか。その前に、自分がここから出れるのか。いくつもの不安が絶え間なく頭を駆け巡る。だが、その思考もブルギィの宣言によってかき消えた。 「そこの小僧は、2年前から私の手下だ。お前は実験体だからまだ生かしてやるが、いつかああなるぞ。自我があることの喜びを存分に堪能しておけ」  言いながら、ブルギィはレチッタのことを顎で指し示す。自分の名を呼ばれてもなお、彼は反応しなかった。ブルギィが数歩近寄って腕をぐいと引っ張ると、ようやく後について歩いていく。幼子のようなたどたどしい歩調だった。  ガジュが圧倒的な絶望感に支配されるよりはやく、ブルギィはレチッタを連れて行き、扉を開けて出ていく。  あまりの衝撃で視界が白くなりかけていたガジュの耳に、ドアが勢いよく閉まる音が響いた。
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