2、忘れたい熱

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2、忘れたい熱

「あっ……あぁっ、んっ」 手で、唇で、舌で……ミナミに肌をなぞられる度、喜びに体が震える。これをずっと待っていたのだと思い知らされる。 「可愛いね、かなちゃん」 「やっ……ヤダッ、も、やだぁ……」 心も体も、こんな男にもう乱されたくない。 そう思う気持ちとは裏腹に溺れていく自分をどうすることも出来なくて、俺は子供のように泣いた。 「ヤなの?どうして?」 優しく俺の頬を撫で、柔らかなキスを顔中無数に落としながらミナミが訊ねた。 「優しくしないで……」 そう口にしてしまった途端、更に涙が溢れた。 「ミナミのことなんか……忘れたいのに……!」 どうして忘れさせてくれないんだと俺はまた泣いた。 ミナミに出会う前は淋しさなんて知らなかった。 こんな事になるならレンタル彼氏なんか呼ばなければ良かった、とあの日一人ぼっちに戻った部屋で俺は思った。ミナミが居ないこと以外何一つ変わっていないのに、朝陽に照らされた部屋も心も寒くて仕方がなかった。 誰かの温もりの中で眠る心地よさを知ってしまったら、もう元の生活には戻れない。ましてや仕事で相手をしてくれただけのミナミにこんな感情をぶつける訳にもいかない。 そう思って全てのバイトを辞め、俺はレンタル彼氏の世界に飛び込んだのだった。 それなのにこの男ときたら、呼びもしないのに翌年のクリスマスにも我が家に押し掛けてきたのだ。 「メリークリスマス!」と言って、サンタの真っ赤な衣装に身を包んで。 一番の稼ぎ時に何をやっているんだろう?第一、規則違反だ。 バカなんじゃないのかと、俺は追い返そうとした。 ……でも、出来なかった。 だって会いたかったから。どうしようもなく、本当は会いたかった。 嘘だと分かっていたけれど、あのたった一度きりの夜を忘れることなんて出来なかった。あれから一度だってレンタル彼氏を呼んだことは無かったけれど、サイトの登録を消すことも出来なかった。 「ずっと淋しかった。もう、置いていかないで……」 その日、ずっと我慢していた言葉をミナミにぶつけた。けれどミナミは困ったように笑っただけで、何の返事もくれなかった。 そのまま優しくキスをして、ミナミは気を失うまで俺を抱いたのだった。 そうして翌朝、俺の目が覚める前にミナミは再び姿を消した。
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