2、忘れたい熱

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それから毎年、ソレがすっかりクリスマスの恒例行事になっている。 けれど、どうせ消える男を待つなんてバカな真似、本当はもう止めたい。 だから優しくなんてしないで欲しい。 優しく俺に触れないで。 優しい言葉を囁かないで。 でも…… 嘘でもいいから「愛している」と言われたい。 「置いてかないよ」と約束して欲しい。 嘘でいいから。 嘘でもいい。ひと時の夢でいい。 いや、そんなのウソだ。それならいっそ手酷く捨てて欲しい。 ううん。やっぱり嘘でも愛が欲しい。 この男に会うと、その狭間でいつもズタズタに身が引き裂かれる想いがする。 だからクリスマスなんて大嫌いなんだ。 隠したい本音が溢れて止まらなくなる。 いったいこの男は何人にこんな酷い事をしているんだろう? 「ダイキライ!!」 俺はミナミの胸元をポカポカと叩きながらそう叫んだ。 「ごめんね。泣かないで」 まるで幼子でもあやすようにそう言ってミナミは俺を抱き締めた。 「嫌だ!ヤメロ……!」 「……しがみつかれながら言われてもなぁ」 嬉しそうにクスクス笑うミナミの声が頭上に響く。 ミナミに愛しいものみたいに扱われる度、嬉しさと苦しさで心臓が潰れそうに痛くなる。こんなウソツキ、信じたら駄目なのに。 どうせまた、明日になったら消えるんだ。 サンタなんて大嫌いだ。俺が本当に欲しい物なんて、一度だってくれたことがない。 それを知っていて、毎年律儀にサンタの格好をしてくるコイツの気が知れない。あの格好を見る度に、それが一夜の夢だと思い知らされる気分がする。 「────っあ」 形ばかり抗う俺の中に、容赦なくミナミが入ってきた。そのまま深く深く口付けられ、脳みそが溶けそうな感覚に襲われる。 「ヤッ……ヤダッ……」 「ヤじゃないでしょ?」 そう言ってのける自信満々な微笑みに、抗いきれずに惹かれる自分が悔しい。 「ココ突かれるの好きだよね?」 「好きじゃ……ないっ」 「ナカは素直にキモチイイって吸い付いてくるのにね……」 「っるせ……!んっ、この……エロ、ジジぃ……っ」 「かなちゃんがエロ可愛いから仕方ないよね」 俺の悪態を気にする素振りもなく、ミナミは甘く激しく俺の弱いトコロを突いた。 「ひっ……ぁんっ……やっ」 「うん、キモチイイね……」 「良く、ないっ……」 「うんうん……」 相変わらず俺が何を言ってもミナミは顔色一つ変わらない。どうしたらこの男の眉一つでも動かせるのか、俺の口は年を経るごとに素直じゃなくなっていった。 いつも、ミナミはまるで子供でもあやすように俺を抱く。そんなに年が違わないであろうこの男にとって、俺は一体どんな存在なんだろう。 もちろん怖くてそんなこと訊けないけれど。 「あっ……あぁっ──────っ!!」 この熱を一年待ち続けた体は、あっけなく一度目の絶頂を迎えた。 「やっぱりかなちゃんは最高だなぁ」 自分も俺の中で果てると、ミナミは汗に濡れた髪を掻き揚げ、そう言って笑った。 「バーカ」 せめてもの抵抗で俺が背を向けると、そのまま後ろから抱き締められた。
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