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「かなちゃんに出会って、俺……初めて本気で変わりたいって思ったんだよ」
そう言って、ミナミは俺を抱き寄せた。
ミナミの腕が震えているのが分かって、俺は胸の奥が沸き立つのを感じた。
それは余裕綽々な姿しか見せたことのない男の、初めて見せる姿だった。
「かなちゃんに心から笑って欲しいって……今まで生きて誰かにそんなこと思ったのも初めてだった」
「……」
「でも、その相手は俺じゃない方がいいのかも……とかも思った」
「…………」
「これでも俺なりに悩んだんだよ?」
この嘘吐きな男の言葉を、どこまで信じていいのか分からない。
レンタル彼氏なんて、相手を気持ち良くさせる言葉を言ってなんぼなのだ。
「昨日だってさ、かなちゃんが幸せそうにしてたら今度こそキッパリ諦めるつもりで……ドキドキしながら来たんだよ?」
「……ウソ」
「ハハッ。そう思うよね。……でも、毎年毎年……今年こそは拒否されるかも、って本当は不安で。だからサンタコスも止められなかった」
いつでも冗談だと言って身を引けるように、あんな態度をとっていたのだとミナミは言った。
「今年は勝負の年だったからさ、気合いが空回りしてあんな格好になっちゃった」
信じてもらえなくても仕方ないよね、と床に転がったミニスカサンタの衣装を指差しながらミナミは苦笑した。
「勝負……?」
「うん。かなちゃんに告白しようって決めてから、自分の中で“最低3年は同じとこで勤めてからにしよう”って決めてて。今年、ようやく今の会社で3年経ったんだ」
そう言ってミナミは一枚の名刺を差し出した。
「なにそれ……」
呆然とその小さな紙を見ながら、喜びよりもまず、俺の中に怒りが芽生えた。
「バカ!……バカじゃないの?言えよ!!」
俺がどんな気持ちで毎年この時期を迎えていたと思うんだ、と俺はミナミをポカポカと叩いた。
「俺が……俺っ……んだけ、さび……ったと……っ!」
言いながらみるみる涙が俺の目に溜まっていった。
「ごめん。そうだよね、ごめんね」
でもどうしても自分に自信が持てなかった、とミナミは俺を抱き締めて頭を撫でた。
「ねぇ、かなちゃん……お願いだから『うん』って言って?そしたらもう、淋しい想いはさせないから」
「…………っ」
「俺を、かなちゃんの……恋人にしてください」
ゆっくりと静かにミナミは言った。俺はミナミにすっぽりと包まれたまま、小さくコクンと頷いた。
「ありがとう、かなちゃん……」
俺につられたのか、ミナミの声にも涙が滲んだ。
「もう……どこにも、行かないで……!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔をミナミの胸元に押し付けながら俺は叫んだ。ミナミはそれに答えるように俺を抱き締める力を強くした。
「うん、行かないよ」
「置いてかないで!!」
「ずっと側にいる。約束する」
「ぅあ……あ、あぁああ……」
一度堰を切った想いが溢れ出すのを俺は止められなかった。ミナミは子供のようにワンワンと泣き叫ぶ俺の背中を優しく撫で続けた。
やがて泣き止んだ俺に、一緒に暮らそうとミナミは言った。
俺はもう、迷うことなく頷いた。
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