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1、一番嫌いな日
俺はクリスマスが嫌いだ。
クリスマスには今までロクな思い出が無い。
浮かれた顔の人々が街に溢れ、クリスマス限定だとかいうやたらと高い物が店に並ぶ様を見ているだけで吐き気がする。
むやみやたらと聞こえてくるクリスマスソングには、もうウンザリだ。
それなのに俺はまた、“カノジョ”と腕を組んでクリスマスの街を歩いているのだから皮肉だ。
「アイ君、予約したレストランあっちだよ♡」
「うん、ありがとう」
イルミネーションの煌めく街でカノジョに愛想笑いを振りまくと、組んだ腕を嬉しそうにギュッと掴まれた。
ちなみにアイというのはレンタル彼氏としての仮の名だ。
愛情というものを知らずに育った俺には、かえってこの仕事が向いていたらしい。
仮初めのカノジョ達と手を繋ぎ、言葉を交わし、体を重ねても、俺の心はピクリとも動かない。だからこそ、俺はカノジョ達の望む“カレシ”を演じられる。
カノジョを抱いても特に気持ち良かったこともない。けれどそれが「自分勝手じゃなくて良い」と好評なのだから不思議だ。
おかげでこの仕事を始めてから、食うに困るということが無くなった。
俺の本当の名前は哀(かな)だ。
自分の息子にこんな名前を付けるなんて、いかにもあの人達らしいと思う。
もはや顔も声も思い出せないけれど、とにかく親になるのには向かない人達だった。
(はぁ……これだからクリスマスは嫌いなんだ)
両親のことなんか考えたくもないのに、プレゼントを抱えたまま施設の前に置き去りにされた日のことをどうしても思い出してしまう。
最初で最後のプレゼントだったあのぬいぐるみは、その後どこに消えたんだろう。今ではもう何も思い出せない。
カノジョとのデートを終えて帰宅した俺は、シャワーを浴びるとベッドに倒れ込んだ。
毎年、この日だけは誰ともホテルに行かないと決めている。カノジョ達からも派遣先からも熱望されるけれど、クリスマスの夜だけは家に居たい。
(今年は来ないかもしれないけど……)
毎年そう思いながら待ってしまう。そんな自分も嫌だった。
「か~なちゃん♡」
ウトウトし始めた夜更け過ぎ、安アパートのドアの外から俺を呼ぶ声がした。
俺は跳ぶように起き上がると、素早く玄関を開け、その人物を引き入れた。
「ふはっ!今年も熱烈な歓迎アリガト♡」
無我夢中で抱き付くと、真っ赤な衣装に身を包んだ男がカラカラと笑ってそう言った。
「……遅い」
約束した訳でもないのに、そんな言葉が口をついた。
「ごめんね。お待たせ」
そう言って俺の頭を撫でるこの男は、俺の彼氏でも友人でも親戚でもない。
俺が過去に一度だけ、レンタルした男だ。
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