地獄で、また会おう

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照りつける太陽と風に揺らされる木々のざわめき。 久しぶりに感じる開けた世界の動きを感じながら首筋に走った電流と共に意識を失う。 意識を取り戻したのは場所も分からない寂れた倉庫の中で、懐かしさを感じさせる面持ちで僕の前に立つ男の手には木製のバットが握られている。 「久しぶりだね、直樹君。君も結構老けたね。」 僕の質問に彼は木製バットのスイングで答えた。勢いよく振られたバットは腹部から肋骨の中間あたりに痛みと灼熱感を走らせる。 「こんな回りくどいする意味あるの?殺したいなら早く殺せばいいのに。」 彼はまたスイングで答える。今度は脛のあたりに先ほどよりも鋭利な痛みが流れる。殴られえた部分の皮膚は薄赤色と紺色に近い青色が混在する痛々しい色に変色していく。 「・・・どうせここで死ぬんだ、最後に、聞きたいことなんでも答えるよ、何か聞きたいことは、ある?」腹部を殴られたせいか、呼吸がうまく回らない。 「どうして姉さんを殺した?」ついさっきまで僕を照らしていた太陽とは真逆の冷たさと暗さしか感じない声色と面持ちで彼は尋ねる。 「ああ、君のお姉さん、名前なんだったっけ、十年以上も前だから忘れちゃった。」そう言うと彼の怒りが静かに燃え上がるのを肌に感じた。その怒りは複数回のスイングに変わり僕を痛めつける。確実に致命傷になる部分は避けて殴りつけてくる、おかげで意識を失わずにいられる。 「理由・・・なにが、決定的になったのかは、分からないな。料理が下手なところとか、人によって態度を変えるとことか、公共の場でも大きな声で話すとことか、忙しい時期だって分かってるのに結婚を迫ってきたりだとか、・・・そういう、一つ一つなら大したことない苛立ちが積み重なって、何かの拍子で爆発したんじゃないかな、十数年も経つと殺した理由なんて忘れるもんだよ。」彼の怒りは抑えきれないところまで、騰がってきたのだろう、次のスイングは明確に殺意を持って頭部を打ち付けた。意識が無くなる、恐らく次に僕が目覚めるのは太陽の光も当たらない水の底か、土の中だろう、いやこのまま目覚めることはないのかもしれない。それでいい、お前の姉を殺した理由なんて死んでも言ってやるものか。僕を殺して、お前もお前の姉と同じ地獄に落ちろ。お前の姉に殺された僕の妹に天国から嗤われろ。お前には考えもつかないだろうけどお前の姉は学校でも名の知れた苛めっ子だった。標的になったのは同じ学校に通ってた2歳下の僕の妹。標的になった理由は当時お前の姉が狙ってた男と付き合ってたとかそんな理由だった。少なくとも妹の遺書にはそんなことが描かれていた。人によってころころと態度を変えるあの女の事だ家ではさぞかし優しい姉だったんだろうな、簡単に騙されるその浅はかさはそっくりだよ。イジメの件を揉み消すために教師に体を売るような女だったって知ったお前の顔を想像すると笑いが止まらなくなる。信じられないなら、あの世で直接あの女から聞けばいい地獄では嘘は付けないだろう。そうだ、僕も地獄に行ったらあの女に伝えてやろう、お前が愛した男は復讐のためだけに作り出された偽りの姿だったって、顔を好みの物に変えて、趣味も合わせ、くれてやった愛の言葉は全て口から出まかせ、全部幸せの絶頂から叩き落すためだけの演技だったって。 そろそろ地獄で待ってるアイツに会いに行ける頃かな。 春の終わりを感じさせる冷たい風に吹かれながら、ふと空を見上げる。久しぶりに見た開けた世界は首筋に走った電流に遮られ見えなくなっていく。 目が覚めたのは見覚えのない寂れた小屋の中で、目の前には見覚えのない老婆がポリタンクを片隅に置き立っていた。 「誰だ、あんた?」 「・・・どうして、春明を殺したの?」 「ああ、婆さんアイツの母親か、理由なんて言わなくても分かるだろ、アイツは人殺しだぞ」 「春明は、被害者よ、全部あの女のせいで・・・あの女に人生を狂わされ殺されたよ!殺してやる、もう私に失うものなんて何もないわ。」そう叫ぶと火のついたライターを足元に投げつけてきた。周りから激しく上がる炎の中で笑いがこみ上げそうになる。やっぱり人殺しの家族だ血は争えないな。お前もアイツと同じ地獄行きだ。そして天国にいる姉さんに笑われればいい。そうだ地獄でアイツに会って伝えてやろう、お前の母親ももうすぐこっちに来るぞって。
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