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3. フェリー乗り場
フェリーの待合所の椅子で伸びている私に、チャラ男は付き添ってくれた。
「君は先に宿に行っていなさい」
今は18時。もうチェックインの予定時間は過ぎている。
「死にかけのおっさん置いてけないっしょ!」
「私は本土に帰る」
「せっかくここまで来たのに?!」
ここでやめたら全て水の泡。過呼吸になりかけで宿に長期宿泊の電話を入れたのも、甥っ子の楓に一ヶ月間泊まり込みで犬の世話を頼んだのも、東京を出て人と船に酔いながら宮城県のこの蛍島に辿り着いたのもーー。今諦めれば全ての苦労が無に帰すこととなる。
「てか名前聞いてなかったよね、俺辰巳遊星」
「田端俊彦です」
「なんて呼べばいい? 俊ちゃん? それとも彦りん?」
「何でも」
「ほいじゃ、彦りんって呼ぶねん☆」
変な渾名だが具合が悪過ぎてどうでも良い。
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