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「今日の夕飯何?」
「着いてからの秘密です」
遊星と女将が楽しげに話す間も、桃太郎を思い胸が苦しかった。病院の時以外一時も離れたことはなかった。桃太郎に会いたい。ピンクの舌を出して私を見つめる円な瞳が恋しい。
涙が溢れる。
「桃太郎……うおぉぉぉん!」
「どうしたの、彦りん?!」
「田端さん、大丈夫ですか?!」
突然泣き出した中年男に二人は内心ドン引きしているに違いない。
「桃太郎って誰ですか?」
「飼い犬です……」
しゃくりあげながら愛犬の話をした。
「犬も家族だから離れると寂しいですよね」と律子さんが共感してくれた。
「夕飯食べたら家に電話しなよ。ワンコと話したら?」と遊星。
「そうですね」
ふと窓の外を見ると、山に向かって広がる田圃の周りに小さな光が舞っている。
「あれは……」
「蛍ですよ、珍しいでしょう?」
律子さんが答える。
「本当だ、すげ〜!!」
遊星は子供みたいに感激している。
「夕食の後蛍ツアーやりますが、来ますか?」
「行きまーす!」
我先に手を挙げる遊星。
ツアーは魅力的だが、他の宿泊客と一緒は緊張しすぎて死ぬ。
「私は遠慮しときます」
「え〜、彦りんも行こうよ〜ん!」
遊星はバカップルの片割れみたいに私の肩を揺らした。
「きっと感動しますよ」
「……考えておきます」
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