3. フェリー乗り場

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「今日の夕飯何?」 「着いてからの秘密です」  遊星と女将が楽しげに話す間も、桃太郎を思い胸が苦しかった。病院の時以外一時も離れたことはなかった。桃太郎に会いたい。ピンクの舌を出して私を見つめる円な瞳が恋しい。  涙が溢れる。 「桃太郎……うおぉぉぉん!」 「どうしたの、彦りん?!」 「田端さん、大丈夫ですか?!」  突然泣き出した中年男に二人は内心ドン引きしているに違いない。 「桃太郎って誰ですか?」 「飼い犬です……」  しゃくりあげながら愛犬の話をした。 「犬も家族だから離れると寂しいですよね」と律子さんが共感してくれた。 「夕飯食べたら家に電話しなよ。ワンコと話したら?」と遊星。 「そうですね」  ふと窓の外を見ると、山に向かって広がる田圃の周りに小さな光が舞っている。 「あれは……」 「蛍ですよ、珍しいでしょう?」  律子さんが答える。 「本当だ、すげ〜!!」  遊星は子供みたいに感激している。 「夕食の後蛍ツアーやりますが、来ますか?」 「行きまーす!」  我先に手を挙げる遊星。  ツアーは魅力的だが、他の宿泊客と一緒は緊張しすぎて死ぬ。 「私は遠慮しときます」 「え〜、彦りんも行こうよ〜ん!」  遊星はバカップルの片割れみたいに私の肩を揺らした。 「きっと感動しますよ」 「……考えておきます」
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