一章 時川夜果

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雑然と掃除道具が置かれた物置小屋。 廊下を歩いているときにちらりと見ると、時折ドアが開いているときがあり、物の積み方のせいか妙に奥行きを感じ、いつか入ってみたいと密かに思っていた小屋だった。 大型の使い込まれた掃除機、大容量の洗剤、ぶら下げられたゴム手袋やぞうきん。 そういったものが夜果の心を不思議となごませた。 清潔を保つ、ただそれだけの道具であるということが心を搔き乱す要素がないということが夜果には嬉しかった。 掃除道具に安心感を覚えるなんて、自分の心はどれほど、すさみ疲れているのだろうと夜果は思った。 このまま甘い自己憐憫の気分に浸ってしまいたかった。 目の前のマダム・レオンに「内気な子だ」と思われても構わない。 夜果は床に視線を落とした。  そして、初めてこの小屋に似つかわしくない道具があることに気がついた。 「ほうきですか?」 夜果は思わずそう訊いた。 古びたほうきは、獰猛そうな掃除機に囲まれて異質な個性を放っていた。 奇妙な違和感。
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