菜々と真緒、ふたりの祝祭

3/6
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 今日は日曜なので、オフィス街はいつもより閑散としている。建物の明かりも平日に比べると少ない。薄暗いビルの群れは物寂しくて、ちょっと怖い印象だ。  しかし、繁華街のある隣駅へと歩を進めるごとに、街は段々と華やいでいった。並木道は煌めくイルミネーションを纏い、楽しそうに歩く人たちが増えてくる。  駅前広場に着いた私たちは、揃って「おお……」と声を発した。広場の真ん中に、赤と金の装飾で彩られた巨大なクリスマスツリーが鎮座している。その周りを取り囲むように、温かい食べ物や雑貨などの出店がひしめいていた。 「へぇ、クリスマスマーケットやってたんだ〜。菜々さん、知ってた?」 「いや、全然。だからこんなに人がいるのか……」  私たちは賑やかな広場をぼんやりと眺めた。不本意ながら、二人揃ってハッピークリスマスオーラに当てられてしまったのだ。  クリスマスを満喫する人々。幸せそうなカップルもいれば、友達同士と思しき着飾った女の子たちもいる。皆が思い思いにマーケットでの買い物やテイクアウトの食事を楽しみ、ツリーの前ではしゃいで写真を撮っている。 「あれれ? おかしいね、菜々さん。私たちはクリスマスじゃなくて、案件終了を祝うつもりだったんだよ」 「いやホント間違えたわ、我々。何でわざわざ、クリスマスで盛り上がってる場所に来たんだろ……疲れてんのかな?」 「だね。コンビニでビールとテキトーなつまみを買って、どっちかの家で宅飲みすれば良かったね」 「まあ、この辺にも、クリスマス関係ないノリの店はあるだろうし。あっち行こうか」  私は駅の向こうを指差した。反対側の出口まで行けば、チェーンの安居酒屋が何軒かある。日本人なんだから、ローストチキンではなく焼き鳥を食べようではないか。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!