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「えぇ、そうでございます」
「ふぅん。……ねぇ、どういうところだった?」
幸子は何処となく怠そうに問いかけてきた。……なにか、思うことでもあるのだろうか?
「そうでございますね……。とても、栄えております。ここら辺とは、全く違うかと」
「ふぅん」
興味がないのならば聞かなければいいのに。
心の中でそう呟いて、乙葉は幸子を見つめる。彼女の真意がわからない。
「それが聞きたかっただけだから。……もう、行っていいわよ」
まるでもう乙葉に用はないとばかりに、幸子は手であちらに行くようにと指示を出した。なので、乙葉は深々と頭を下げて幸子の私室を出ていく。
(……一体、どういう風の吹き回し?)
今まで幸子に都について聞かれたことはなかった。もちろん、乙葉は都に住んでいたことを隠していたし、知らなかったのならば納得がいく。けれど、ほかの女中たちからそういう話を聞いたことはない。女中はおしゃべりな生き物だ。すぐに情報共有をする。
(まぁ、私には関係ないか)
しかし、すぐにそう思いなおして乙葉は仕事に戻ることにした。
長い渡り廊下を歩きつつ、乙葉は庭園を見つめる。とても美しい庭園は、この家の権力を表しているかのようだ。
それに、実際この家には権力がある。爵位は持っていないが、商売で富を築いた富豪の家系なのだ。財力だけでいえば下手な華族よりも上だろう。
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