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浅野 乙葉は、元は爵位を持つ浅野家の娘であった。十六歳頃まではなんの不自由もなく育ち、令嬢らしい暮らしをしていた。
だが、ある日それが一変する。両親が、事故に巻き込まれ亡くなったのだ。
跡継ぎである乙葉の弟は、まだ六歳の子供だった。最低でも十五歳にならないと、爵位は継げない。つまり、弟が十五歳になるまでのつなぎの伯爵が必要だった。
乙葉は困った。自身は女であるがゆえに、爵位を継ぐことが出来ない。祖父母はすでに他界しており、頼れる人もいない。
そんなとき、父の兄だと名乗る人物とその妻が現れた。彼らの存在は、亡くなった祖父から聞いていた。
なんでも、わけあって勘当したと。そして、以来を疎遠になっていたと……。
父の兄、伯父は忙しない日々に乗っかって、爵位を自身が継ぐようにと手続きをしてしまった。
別に、乙葉はそこに関しては彼らを咎めるつもりなんてない。実際、誰かが爵位を継がなければ、浅野家は途絶えてしまうのだから。
が、そこからが問題だった。彼らは浅野家の財産を食い物にし、贅沢を繰り返したのだ。そうなれば、あっという間に貧乏になる。乙葉は何度か進言したものの、彼らには聞く耳も持ってもらえなかった。
伯父夫婦は乙葉と幼い弟妹を虐げた。まるで邪魔者のように扱った。……それでも、乙葉には逆らうつもりなどなく。
だって、そうじゃないか。彼らに家を追い出されないだけまだましだ。耐えていれば、いつか爵位を取り戻せる日が来るはず……。そう、願っていたのに。
乙葉が十八歳のある日。伯父が乙葉の寝床にやってきた。そして――あろうことか、関係を持とうとしたのだ。
「――っつ!」
さすがに、それには耐えられなかった。だからこそ、乙葉は伯父の頬をひっぱたき、次の日に幼い弟妹を連れて浅野家を飛び出したのだ。
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