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 もとは、独居老人がペットを飼いたいという需要、通院が不便な場所で暮らしている人が医師に診察してもらいたいという需要、一人暮らしの人が誰かと会話したいという需要に、警備会社のサービスを付けたのがAIロボットのコグロだ。  独り言の呼びかけにはAIが対応してくれて、ちょっとした会話が成り立つ。だけど、やっぱり緊急度の高い、救急関連のアドバイスはAIではカバーできない。よって、コグロは必要に応じてAIロボット会社の契約医療施設の医療スタッフに繋がる仕様になっている。オンになったままの音声は勿論、映像も……。  一応、向こうが人間対応である場合もコグロの人口音声でアナウンスされるから、こちらからはAIなのか人間なのか、区別がつかない。  コグロ販売の初期の頃、人の音声アナウンスでサービス対応していた期間があって、回線がパンクしたそうだ。そのため、コグロのアナウンスはAIでも人間の場合でも、人口音声のみと定められた。混乱を避けるため、悪用を誘発させないために必要な措置だったという。心ある登録者にとっては「気にしないで下さい」という心遣いともいえる。  でも、実際のところ、どこかの医療法人に二十四時間晒しっぱの監視カメラと盗聴器を使用者(ユーザー)が自分で自宅内に取りつけているようなものなのだ。  このAIロボット・コグロと契約している会社は、クレジットカード会社と同じくらい厳しい審査を実施しているらしいので、顧客の個人情報が漏洩(ろうえい)することはまずないらしいけれど。……とはいえ、勤務している人の中に知り合いの同級生がいないとも限らない……。  なので、このAIロボットが蒼子さんの家に来てから、私はとりあえず、パジャマで居間をうろつくのは止めた。休日にノーメイクでいることは見逃して欲しいけれど、寝ぐせをつけっぱなしで闊歩(かっぽ)することも止めた。いつ何時、コグロを通して生身の人間がカメラ映像を見ているのか分からないからだ。  この機能の説明を聞いても、いつもシャンとしている蒼子さんは「不自由はないわよ」と言った。ご近所の知り合いはいつだってアポイントメントなしで縁側から挨拶してくるし、愛用しているガーゼの寝巻(ねまき)は就寝前の寝室でしか着ないため、見られて困る生活は特にないそうだ。  ……ズボラな私には耳に痛かった~。
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