アップルパイと君と僕。

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『アップルパイと君と僕。』  いつもより仕事が早く終わったので、普段は素通りする通りをゆっくりと歩く。 「へぇ〜。こんな店もあるんだ?」  今まで気に留めていなかったが、こうして眺めてみると色んな店が並んでいる。 土産物はもちろん、服や雑貨、コーヒーショップ。 「あ…」  革の財布が並ぶショップが目に入った。 そういえば、今使っている財布がだいぶくたびれたので、新しい物がほしいと思っていた。 「ちょっと見てみるか…」  ゆっくりと、並べられている財布を眺める。気になったものをいくつか手にとってみた。 開けたりお金を入れる時の使いやすさを想像しながら、持ちやすさ、手に馴染むかを確認する。 悪くはないが、なかなかピンと来るものがない。 まぁ、いいか。ここで買う必要もない。 そう思って店を出ようとした時に、ふと目に入ったキーケースに心を奪われてしまった。  なんてことはないシンプルなデザインだが、その革の色合いが絶妙で、茶色とオレンジの中間のような、これはなんていう色なんだろう? 革には四つ葉の刻印が入っていて、プレゼントにも喜ばれそうな品だ。 「すいません。これ、同じもの、もう一つありますか?」 「はい。手作りなのでまったく同じではありませんが、お色違いのこちらはいかがでしょう?」 店員に手渡されたそれは、先程のものよりこげ茶に近いような、深い色だった。 2つ並べてみると、まったく同じ色のお揃いより粋に見えて、ひと目で気に入ってしまった。 「これ、ください。こっちはプレゼント用に包んでもらえますか?」 受け取った袋の中を覗くと、小さな紙袋と、淡い薄紫の包みにレースのリボンがかけられていた。 「誕生日や記念日でもないのに、ちょっと大げさだったかな…」  なんだか少し恥ずかしくなって、彼女にいつ手渡そうか考えていたら、携帯が鳴った。 「もしもし? それはちょうど良かった。今日は早く終わったから、そっちに行こうと思ってたんだ。これから電車に乗るよ」 改札に向かって歩いていたら、ふと、赤いのぼりが目に入った。ショーケースが見える。 「ケーキ屋なんてあったかな?」 ショーケースを覗くと、アップルパイが並んでいた。 「ここ、いつまでやってるんですか?」 「期間限定で北海道から来てて、明日までなんですよ」 「えっ? 明日まで?! じゃあ、これ、2つ買います!」 包んでもらっている間に紅茶も目に止まり、それも買うことにした。 「ただいま。これ、おいしそうだったから買ってみた」 「あら? ケーキ?」 「アップルパイ。君も好きだろ?」 「えぇ。大好き! ありがと」 「ついでに紅茶も買ったよ」 「気が利くわね。パイと一緒にいただきましょう」 「うん。あ…あと、これ」 「なぁに?」 「なんか良さそうだったから。開けてみて」 「え…?!」 「ん? 気に入らなかった?」 「ううん、違うの。ちょっと待ってて」 「これ、開けてみて」 「うん。え…?! これ!」 「ね!」 「同じやつ?」 「だよね?」 「マジ? え? なんで?」 「それはこっちのセリフ!どうしてこれを?」 「いや、今日たまたま入った店で、なんか良さそうだなと思って」 「やだ…おんなじ! 私もたまたま見つけたのよ」 「やっぱり似てるね、僕達」 「ふふ。ほんとね」 「誕生日でもクリスマスでもないのに急にプレゼントなんて変かな?って思ったけど、良かった」 「あら。プレゼントって気持ちじゃない? これあげたら喜ぶかな?とか、そんなこと考えながら選んでくれたっていうのが嬉しいのよ」 「え? なんでわかるの?」 「あはは。やっぱり? だって私もだから!」 「ねぇ、じゃあ、もしかしてこれ、お揃いも買った?」 「えっ?! なんでわかるの?!」 「あははは。ほんと似た者同士だね。僕もお揃い買ったんだよ。ほら」 「あ…! ほんとだ。お揃いが2組になっちゃった」 「大丈夫! それぞれの家の鍵につけて持っていようよ」 「ふふ。そうね。じゃあ、うちの鍵はこっちの色。あなたの家の鍵はこっち」 「どちらの鍵かわかりやすくて良いね」 「ねぇ。でも…」 「ん?」 「やっぱ、なんでもない! それより、アップルパイ、いただきましょう!」 「そうだね。紅茶と一緒にね」 ー了ー * ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ * ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ * 読み物としても、朗読・声劇台本としてもご利用いただけます。 各種配信アプリにてご利用いただけます。 ご利用の際は、配信(投稿)後でかまいませんのでコメントまたは𝕏(旧Twitter)のDMにてご報告をいただけると嬉しいです。 𝕏@fuwari3333 なお、YouTubeその他、投げ銭アプリにてご利用の際は必ず作者名、𝕏ID、タイトルを明記してください。 ※Spoonでご利用の際はタグに #台本ふわり と入れてください。
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