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とはいえ……
確かに、松波の本家の嫡男であるわたしの兄は「継承権第一位」だが……
なにも「継承権」は彼一人というわけではない。
そもそも本家の総領娘であったうちの母には、妹が二人がいた。
そして、それぞれが嫁いだ先で男子を一人ずつ産んでいるのだ。
——にもかかわらず……
わたしと七歳離れた兄と同い年で「継承権第二位」の従兄は、老舗デパートに就職するどころか……
そんな「俗世間」はするっと無視して、大学からすでに東京を離れて京都へ赴き、江戸時代の書物を探究する書誌学の世界にどっぷり浸かる道を選んだ。
今では出身校でもある旧帝大で講師の職に就いており、この度めでたく准教授に任ぜられる辞令を受けたのだそうだ。
となれば、残る「継承権第三位」の従弟に、何がなんでも跡取りになってもらわねばならないのだが……
なんと、その彼までもが松波屋に見向きすることなく……
工学系の大学院を修了したかと思えば、自動制御機器などを扱うまーったく畑違いの会社に就職してしまった。
しかも、そのメーカーの創業家のご令嬢と恋仲になったそうで、周囲の猛反対を押し切ってまで結婚するやいなや……
とっとと会社に異動願いを出し、愛妻を連れて海外の支社へ「高飛び」して行ったのだ。
なので——
今や、すっかりその座は「空位」となってしまった。
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