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代々、「松波」の血で繋いできた「松波屋」の後継者が決まらない——
でも、父がまだ現役でバリバリ舵取りしているから、まだまだ時間はあると思っていた。
わたしが二十代の頃は、お見合い話が引っ切りなしに来ていて、いつも逃げ回ってばかりいたけれども……
それでも、広告媒体へ向けて「松波屋」の顔を利かせて、雑誌モデルとしての仕事を後押ししてくれていたし……
ところが、三十歳の声を聞いたとたん——
廃刊されて「再就職」がなかなか決まらないわたしに……
兄どころか、従兄弟たちにまで「松波屋」を丸投げされたわたしに……
『——もう、そのくらいでいいだろう』
父はきっぱりと告げた。
『いつまでも、芸能界なんぞで遊び呆けてるんじゃない。
「松波屋」には、もうおまえしか残っていないのだからな』
『う、ウソでしょう⁉︎
わたしが「松波屋」を継ぐなんて……
絶対に無理よっ!』
わたしは抗った。
たまたま「松波」の家に生まれたというだけで、何千人もの従業員——いや、その家族を含めると何万人ともなる人たちの「人生」を背負うなんて……
『あぁ……安心しろ。ちゃんと手は打つ。
まさか、おまえのような経営の素人を最前線に出すつもりはないさ』
父は乾いた声で苦笑した。
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