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「……おい、麗華」
ピークドカラーの黒のタキシードを着用した男——典士が怪訝な顔でわたしを見た。
彼は大橋 典士といって、町田にある幼稚部から大学まである私立の学園での同級生だ。
(もっとも、彼はわたしよりはるかに頭が良かったため、大学は「エスカレーター」を降りてJ大へ行ったけれども……)
「典士」が「テンシ」と読めることと、幼稚部時代に「地上に舞い降りた天使」のような浄らかで愛らしい風貌であったことから、学友たちからはずーっとそう呼ばれている。
(もっとも、見た目がどれだけ「尊く」ても中身はまた別、という典型的なタイプではあるが……)
あれから……
「華丸」との政略結婚なんて冗談じゃないと思ったわたしは、即座に逃げた。
そのときに、真っ先に思い浮かんだ「避難場所」は典士だった。
幼稚部からの腐れ縁である典士とは、性差を超えた「親友」だと思っている。
思春期に入って色気付いても、典士だけは相変わらず「友だち」のまんまだった。
(同じく学園の同級生で、典士とって親友とも言うべき男が、わたしの「初カレ」となった)
だけど、「家」はわたしの交友関係なんて百も承知だから、典士のところへ速攻で「追手」を放ってきた。
すると、典士はわたしに指示した。
『あいつに匿ってもらえ』
「あいつ」とは彼の親友で、わたしの初カレである万里小路 直仁だ。
わたしは典士の指示どおり、直仁の家に向かった。
ところが、てっきり話を通してくれているものだとばかり思っていたら、なんと向こうにとってはまーったく「寝耳に水」だったらしい。
しかも、直仁は婚約パーティを終えたばかりだった。
わたしは、直仁が婚約者さんと同棲を始めたマンションへ押しかける形となってしまったのだ。
本当に申し訳なかったと思っているけれども、背に腹はかえられない。
婚約者——美々さんが理解のある人でよかった。
(なんだか、彼女の目が口ほどに笑ってなかったような気がしたんだけど……そんなことないよね?)
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