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「なによ?典士」
口の中のフィレ肉の塊を咀嚼しながら、わたしは見返した。
このホテルの「本店」にあたる、我が国を代表とする老舗ホテルの「名物料理」だ。
今日のパーティではその老舗ホテルのシェフたちが、わざわざこのSAKURAヒルズ内のオフィスビル五十七階にあるバンケットルームまで出張してつくってくれていた。
(と言っても、バンケットルームの階下にあるホテルフロアがその老舗ホテルの「系列」なので、シェフたちはみなそこから出勤しているのだが……)
なんでも、戦前その老舗ホテルに滞在した某国の声楽家が喉を痛めたとかで、そんな彼に食べてもらえるようにと、料理長が特別につくったのが始まりだという。
——あぁ、美味しいっ。
これを食べられるだけでも、来た甲斐があったっていうものよ。
「おまえ、呑気に肉なんて食ってる場合か。
……あれ、見ろよ」
典士が顎で、くいっと方向を示す。
わたしは糸で引かれるようにそちらを見る。
すると、そこには——
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