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咲の言葉に千牙がちら、と視線を寄越し、そして地を蹴った。飛び上がった千牙は大太刀を鬼の頭に振り下ろし、最初に会った時同様、鬼を一刀両断にする。鬼が切り裂かれた部分から、光の粒となって空へ上っていく。咲は両手をひろげて、その光の粒に唱えた。
「天に帰る朧たち。あなたたちの未来を祝し名付けましょう。ホマレ、キチ、サカキ、アン……」
鬼の形が崩れゆき、その場には幼い子供の笑い声が溢れていく。鬼を切った千牙もまた、驚いていた。
「これは……、解呪か……」
「シノノメ、ヨスガ、イツキ、ヒビキ……」
光が透明になり、泡となって消えていく。
「我欲に縛られ、悪鬼となった朧たちを、赦しているのか……」
「アヤ、リツ、ノゾミ、ミヤビ……。みんなみんな、行く末健やかに。そして幸多かれ……」
そして最後の一粒までが天に昇るのを見届けて、咲は腕を下ろした。その場には、最後の朧が昇天していくのを見届けた千牙と、鬼の変化に驚き呆けた市子たちの姿があった。呆けたままの市子たちに、千牙が相対する。
「おぬしたちの所業、つぶさに見てきたが、思いあがること甚だしく、利己的かつ我欲尽きるところなく、もはや酌量の余地はない。よって、古の協定に則り、おぬしたちに与えし破妖の力をはく奪することが決定した。今後はいち邑民として、心平らかに畑(はた)を耕し、つつましく暮らしていくがいい」
千牙はそう宣誓し、市子たちに向かって太刀風を吹かせた。すると市子たちは手に持っていた武器をあっけなく落とし、更にそれが持ち上がらないようだった。
「なんで!? たいして重さのない筈の飛刀が持てない!」
「太刀に指もかからない! あんた! あたしたちになにをしたんだい!」
食って掛かる市子たちを、千牙は歯牙にもかけない。やがて彼女たちを森から出てきたあやかしが囲む。千牙はその悲鳴が聞こえないところまで咲を抱いて飛ぶと、降り立った先で咲に向き直って両手を取り、こう言った。
「咲。おぬしの清き心、まことに美しい。おぬしさえよければ、この先ずっと、私の傍にいてくれないか」
えっ。
まるでとこしえを誓う求婚のようではないか。咲が目を丸くしていると、千牙は穏やかに微笑んだ。
「おぬしは朧の解呪と同じ力で、私に掛けられた呪も解いてくれた。私は新たに持ちえた桜玉の名をもって、おぬしの前に跪こう。我が愛しき咲。この命、おぬしに預ける」
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