少女は愛され娶られる

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彼が咲の目の前に跪く。両手を大きな手のひらに包まれて、動悸が収まらなかった。 「え……っ?」 咲が驚くと、彼はふふ、といたずらな笑みを見せた。 「私は人妖界の調停者として役を任じられた時に、本当の名をあの桜に封じられた。咲が名付けてくれたことで、私は自由になったのだ」 そんな重大な桜とは知らされていなかった。力の大きな妖が力の弱いものに名を呼ばせるとどうなるかということは、千牙自身が言及していたところなのに。 「咲にだけ、その名で呼ばれたい」 名を呼ばれることの喜びを、咲は知っている。彼もまた、名を呼ばれたがっている。 「お、……桜玉さん……」 「ふふ、こそばゆいな」 桜玉は満足げに微笑んで、こう言った。 「神々におぬしの働きを上申した。神々はおぬしの働きを褒め、その働きをもっておぬしを名づけ巫女とし、私と共に生きていく旨、了承してくれた。私は人妖界の調停者。この役割がおぬしを苦しめることになるかもしれぬが、私はどうしてもおぬしを離したくない。咲、頷いてはくれぬか」 桜玉の言葉を信じがたい気持ちで聞く。咲のしたことが褒められた? 咲に、この先ずっとの居場所をくれようというのか!? 大きな手が、震えている。まさか、咲相手に緊張している? まさか、まさか……? 喉がカラカラで、声が張り付く。上手く言葉を継げない咲を、桜玉は耐えられない、と言ったように抱き締めた。 「咲! 否やの言葉は聞きたくない。はい、とだけ言ってくれ。それ以外は、聞きたくない」 常に大人びていた彼の感情溢れる声に、咲は涙腺が崩壊してしまう。幸せすぎて、溶けてしまいそうだ。 「はい……。桜玉さん、はい、ずっと……」 彼の胸に抱きしめられて、咲は泣いた。泣き止むまで、桜玉が抱き締めていてくれた。
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