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「ねぇ......顔見せて?」
「あと買うものある〜?」
母さんの声が横から聞こえてくる。
僕はカートに置いた買い物カゴの中身を見ながら、買い忘れがないか考え込み、見慣れたものがないことに気が付く。
「......ティッシュ」
「あーそうだった......!!」
母さんはティッシュ売り場に向かって身軽に方向転換して歩いていく。カートを押す僕は、カートに力を込めて重々しく母さんの背中を追いかけた。
「ホームセンターって広くてお母さん疲れちゃうなぁ......」
母さんの小言を聞きながら僕はガラガラと音を立ててカートを押し歩いていくと、ある物が目に入って立ち止まった。
「......? どうしたの遊」
僕はそれを買い物カゴに入れようと手を伸ばす。
「遊......またビニール傘買うの?! 何本目よ?!」
「だって壊れたんだもん」
呆れたように母さんが言ってくるが、気にせずに買い物カゴに入れる。
「大体さ、もうちょっと高い傘買ったらいいじゃん。なんで壊れやすいビニール傘なのよ」
僕は胸の奥から込み上げてくる感情を抑えて平然を装って言う。
「......安いからいいじゃん」
分かってる──。
もうビニール傘を10本は買っているから、安いからという理由は無理がある。だったら丈夫な傘を買うほうがいい。
分かってる......。
でも、僕にはこの安いビニール傘じゃないと駄目なんだ......。
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