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甘い香りの彼と忘れたい俺
絡みつく甘ったるい香水の香りが
俺を惑わせる。
だがそんな彼のところに
俺はまた戻ってしまっていた。
10月下旬
外も寒くなる中、俺は過ちを犯していた。
”元カレに連絡を取ってしまったのだ〟
白崎優(しろさきゆう)
社会人三年目のサラリーマンだ。
そして昨日、彼女に振られた。
まともな恋をしょう。
そう思って女の子と付き合ったが
自分の優柔不断さが仇となって
別れる事になってしまった。
そして俺はそんな寂しさと情けなさを
埋めるように彼に連絡をしてしまった。
「やあ、優くん久しぶり!」
スマホの画面を見ていた俺は
声が聞こえた方へ振り向いた。
流行りのマッシュヘアーと口元のほくろ
だらっとした黒服に光るピアス。
早瀬秋斗(はやせあきと)
俺の元カレだ。
あいつは大学時代の同級生で
今は美容師として働いている。
見た目通りのチャラ男だ。
秋斗は優しい声で俺に話しかける。
「2年ぶりに連絡きてびっくりしたよ。
元気にしていた?それとも寂しかった?笑」
図星をついてきた秋斗に対して
俺は少しそっけない態度で言い返した。
「そんなわけねぇだろ……少し話したかった
だけだ。」
そんなそっけない態度をした俺に
秋斗はまた意地悪をするように
肩に手をやり、顔を近づけた。
彼の周りから甘ったるい香水の香りがした。
俺は少し強引に押し退けて
「人前なんだからやめろよ!
とりあえず訳は店で話すから行くぞ。」
と言った。
秋斗は少しニヤけた顔をして
その場を後にした。
店についてからは
お酒を2.3杯いれて話をしていた。
お互い社会人になってから
会っていなかったのもあり、話は弾んだ。
世間話に大学時代の話……
今更だが少しだけ
会う事に対して抵抗があった。
だが話しに話してその抵抗は
だんだん薄れていった。
その時間は悔しいが楽しかった。
なんでも話を聞いてくれて
否定をせずに肯定をしてくれる。
たまにおちょくってくるが
そんな所が……
なかなか恥ずかしくて言いたくないが
可愛らしく思えた。
お互いに話題も尽きた頃
秋斗がこちらを見つめながら
ロックグラスを片手に話を切り出した。
「ねぇ?今、彼氏か彼女いるの?」
俺は秋斗の質問に答えた。
「昨日、彼女に振られた……」
秋斗は動揺もせずに俺の答えに返事をした。
「そうか。」
俺はそんな秋斗に対して皮肉をいい始めた。
「惨めだろ?お前に対して
〝俺は普通の恋愛をする〟
とか言っておいて
結局、振られてどうしょうもなくて」
そのまま俺は込み上げた気持ちを吐き出した。
「元カレの所にめそめそと帰ってくる。
自分の惨めさと寂しさを埋める為に
こうやって都合のいいように頼ってさ……
秋斗ならどうせすぐに抱いてくれる
前みたいに俺と付き合っていても
すぐに浮気するぐらいだ。
だから呼んだんだよ。
どうだ?……俺はクズだよ……」
そう言ってやるせなさを
自分を責めて自暴自棄になってぶつけていた。
それを聞いた秋斗は何も言わずに
俺の目を見つめて飲み続けた。
静けさだけが通り過ぎる中
俺はまた自分を責めた。
「面白いだろ?お前を捨てたやつが
こうやって惨めになってさ
平凡な仕事をして
頑張って作った彼女に捨てられて
友達すらもいなくて
誰にも頼れる奴がいなくて……
結局、自分から切った関係に戻るような
ゴミみたいなことをして」
だんだんと涙が込み上げてきた。
「もう25にもなる大人がめそめそ安酒を
飲みながらすがる姿ってさ……
笑えよ……笑えよ!!
笑ってくれよ……」
俺は自分を責める中で虚しくなり
泣いてしまった。
感情も制御できない赤子のように
その場で泣きじゃくっていた。
そんな姿を見た秋斗は
グラスを持つ俺の手を指を絡めるようにして
強く……強く……握った。
そして優しい声で
「僕は笑わないよ。」
と言ってくれた。
嗚咽混じりの声で俺は
裂けそうな気持ちを抑えながら
「なんで……笑ってくれないんだよ。
馬鹿にしてくれよ……俺はお前を捨てたんだぞ
捨てたのに……忘れたのに……
なんでいつもお前は……」
そう言った後、秋斗は席を立って
俺の側にきて静かに無言で抱き寄せた。
甘ったるい香水の香りが広がる。
でもその香りは懐かしいさがあった。
そしてその匂いを俺はまた求めていた。
わかっている。
もう戻れなくなるってまた辛くなるって
でも……それでも……
俺はそのまま秋斗の
胸の中で落ち着くまで泣いた。
お店を出た後
無言で帰り道を歩いていた。
そろそろ駅に着く……
店で泣きじゃくって
これ以上、迷惑をかけれないと思い
俺は帰ろうとしていた。
駅が近くなる。
そんな中、秋斗は俺の手をまた握って
「ねぇ、もう帰るの?」と聞いてきた。
俺は少し申し訳なさそうな顔をして
無言で悩んでいた。
そんな顔みた秋斗は少し笑いながら
「優くんはやっぱり昔と変わらないね。
人の顔を伺って決めきれないとこ。
それで彼女に振られたんでしょ?笑」
とまた図星をついてきた。
俺は図星をつかれて
その事に対して
大きく反応してしまった。
「そうだよ!俺はそうやっていつもきめ……」
秋斗は急に俺の唇を人差し指で抑えて
「泣いたと思ったら急に怒って
本当に女の子みたい。
でもそんな所が優くんは可愛いよ。」
と言って
人差し指を離してその指を
そのまま俺の顎に添えて
〝優しくキスをした〟
そのまま暖かい舌が絡みつく
唾液混じりの中
ヤニと甘い香水の匂いが頭をぐらつかせた。
忘れたかった味……
でもその味は恋しくも懐かしく
儚さだけが通り過ぎ去った。
秋斗はキスをした後
「じゃあ行こうか。」
と言って
そのまま秋斗に連れられるように
ホテルに行った。
また俺は過去に戻ってしまった。
そこからは寂しさを埋めるように
俺は秋斗を求めた。
心に空いた穴を何度も、何度も
埋まるはずがないのに埋めようとしていた。
後悔が渦巻く……
でもそんな事を忘れさせてくれるように
秋斗は何度もキスをして抱き寄せてくれた。
甘い香りがする
甘い過去に戻るように……
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