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その、時。
沈みゆく、その手―――。
その手が、まるで私に向けて伸ばされたかのように見える。
そんなはず、ないのに。
◇
「――んっ…。あぁ…」
強引にヤクザの若頭の女にされた私。
今もこの男は私の腰を両手で掴むように持ち、
背後から私の中に自身のものを出し入れしている。
それは激しく、強く、痛いくらい。
本当に、この男そのもののようで。
「――お前は、俺のものだ」
幾度も口にされる、その言葉。
鎖のように、私を縛る。
身も、心も。
「あぁ…んっ…」
一段と強く突かれて、自分の体を支えている両手から力が抜け、私は前のめりに態勢を崩す。
ベッドのシーツを掴み、顔を埋め声を圧し殺す。
「 」
私の喘ぎ声と、ねっとりとした液体を纏った肉と肉が激しくぶつかる音に紛れ、微かに聞こえた男の声。
…私の名前?
そんなわけ、ないな。
私はこの男にとって、性の捌け口や奴隷で。
愛玩動物すら以下で。
人として認めその名前を呼ばれるわけなんてない。
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