第1話 王者の風格

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第1話 王者の風格

 都会の真ん中、ビル群の一つに編集長お勧めのジムがある。地下にある専用駐車場にマイカーを進ませると、見事に外車と高級車がずらりと並んでる。  編集長紹介のおかげか、入会金ナシで入れたけど、目が飛び出るくらいの会費だ。 『これで執筆頑張れるだろ?』  という、これまた鬼のようなお言葉を頂戴してる。まあ、どうにもならなかったら退会するだけだし。とはいえ、期待に応えるよう頑張らなきゃとは思ってる。 「おはようございます。鮎川……真砂(まさご)さんですね」  エントランスで受付してると、病院ぐらいでしか聞かない僕の本名が呼ばれた。振り向くと若いお兄ちゃんがニコニコして立っている。  ショートヘアの体育会系、爽やかな笑顔に白い歯! ジムのロゴの入ったパーカーを着てるところから、どうやらトレーナーさんのようだ。 「はい。そうですが」 「僕は舞原と申します。鮎川さんの担当になりましたので、よろしくお願いします」 「あ、はい。こちらこそ」  元気で明るい人だあ。それに今風のイケメン君。そう言えば、最初の2週間は担当トレーナーが着くと編集長が言ってたな。僕は全くの初心者だから有難いや。 「まずはロッカーにご案内しますよ」  全く嫌味のない笑顔に連れられて、僕は施設を案内される。さすがセレブ御用達と言われるジムだ。全てが洗練されてて綺麗。  フロア一面に並べられた様々なトレーニング器具も圧巻だし、プールやヨガダンススタジオもカッコいい。それにシャワー室も個室だ。ジャグジーやサウナなんかもあったけど、それは使わないかも。 「早速なにか使ってみましょう。なにかやってみたいものありますか?」  着替えて入念にストレッチをしてから、舞原さんが聞いてきた。彼は体育大学の院生で、筋肉について研究してるらしい(専門的なことはわからないが、要するにそんな感じ)。僕なんかじゃ、なんの研究材料にもならないだろうに。申し訳ない。 「えっと……腕とか胸を鍛えたいです」  ランニングやバイクは後でやるとして、まずは貧弱なこの体に少しでも筋肉をつけたい。舞原さんに手取り足取り教えてもらって、今まで持ったことがないような重りを一生懸命持ち上げた。最近では鉛筆すら持ってないんだ。 「15回やったら、30秒休憩です」 「はあい」  既にぜえぜえ言ってる。その30秒の間、やることもないので周りを見渡した。そこかしこで器具を動かしてる人がいる。みんな黙々と真剣だ。  ――――あれ……あの人……。  そこに黒の半袖Tシャツとストレートパンツの男性が、階段を昇って僕のいるフロアにやってきた。ぱっと注目しちゃったのは他でもない。ハッとするほどイケメンだった。しかも……。  ――――黒髪ロンゲ、Tシャツからも逞しい腕や胸の筋肉が見て取れる。それはまるで。  アライジャそのものだ。僕が想像してた王者の風格を併せ持つ戦士。隣で舞原さんが何か言うのも聞こえず、僕は彼をガン見していた。
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