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パスターカは、生徒同士の喧嘩に動揺する
「なによ! 私が悪いって言うの? あんたが入口の真ん中に立ってボーッとしているからでしょ!」
新入生の教室で金切り声が響き渡る。
「……」
勢いよく文句を言っているのは、金髪おさげに碧眼の小柄な少女だった。
「何よ! 何か文句あるの?」
少女に文句を言われたのは褐色の肌に黒い巻き髪か艷やかな少年。
少年は何か言っているが、声が小さいのとパセラ語ではない、耳慣れない言語のせいで聞き取りづらい。
「もうっ、何言ってるのか聞き取れないわ。はっきりパセラ語で話しなさいよ!」
騒ぎを聞きつけて、パスターカがやって来た。
「一体、どうしたの?」
「何でもありません、パスターカ先生」
おさげ髪の少女が澄まして答える。
大したことでもないのに、教師が介入してこないでという口ぶりだった。
「このでくの棒が、入口を塞いでいたので注意しただけです。パセラ語じゃなくて何を言っているかも分からないし。パセラ国立魔法学校に来るなら、せめてパセラ語が話せるようになってから来るべきだわ」
パスターカは少女に優しく話しかけた。
「ニンアンナハンエンマンナ 丿ンミンキ?」
パスターカの言っている事が分からず、戸惑っている少女にパスターカは微笑む。
「Ms.エイダ・モーガン? 知っているようだけれど、僕はパスターカ・シン。ここで君たちに呪文学を教える事になっているんだ」
少女は自分の名前をパスターカが口にしたことに驚いた。
「驚いた? 今のは相手の名前を聞く呪文なんだ。話す言語が違う時に役立つと思わない?」
ニコリと笑顔を見せるとパスターカは少年の方を向いた。
「君はMr.バフラム・ダウレーだね。二人ともパセラ魔法学校へようこそ」
パスターカの屈託ない笑顔にエイダとバフラム、周りにいた生徒たちも呆気に取られた。
「言語や風習に優劣はないんだよ。母国語以外の言語が読めない、話せない場合、君たちなら呪文でなんとかなる。できないことをどうすればできるのかを学ぶ場所、それがパセラ魔法学校です。分からない、できないはこれから学べはいい。君たちは新入生なんだから、これから学ぶ機会はたくさんあるでしょう」
パスターカに促されて、二人は静かに席に着いた。
パスターカはそっと教室を見回す。
パスターカとキトが通っていた頃よりも、肌の色や瞳の色が多種多様だった。
パセラ以外の都市から通っている生徒たちが多いことが伺える。
と、するとバフラムのようにパセラ語が得意じゃない生徒も多いかも知れない。
パスターカの知らない文化や風習を知ることができる。
問題も多そうだけれど、この生徒たちと一緒に学んで行くのはきっと面白いことだろう。
パスターカはウキウキする気持ちが、ボールのように勢いよく弾むのを感じた。
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