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陳情まで聞かなきゃならないなんて、聞いてないんだけど……?
「ちょっとお耳に入れておきたいことがあるのですが、よろしいかしら? パスタァーカ先っ生?」
ワンピース姿に毛皮のファー、真っ赤なフレーム眼鏡をつけ、金髪を夜会巻にした派手目の女性が近づいてきた。
なんだか関わらない方が良い気がしたが、パスターカは、女性が近づくのを待った。
「アタクシ、パセラ魔法学校の理事を務めております、カロラ・モーガンと申します。エイダ・モーガンの母ですの」
「は、はぁ。はじめまして……」
カロラの迫力に圧倒され、ドギマギと挨拶するパスターカをジロリと見やってカロラが続ける。
「昨日エイダから話しを聞いたのですけれどもね、うちのエイダの教室への入室を邪魔をした少年を庇ったらしいじゃないですか? アタクシ、びっくりしてしまって。動悸が止まらなくなりましたよ、パスタァーカ先生。その少年を庇ったのはいかがかと思うんですよ。まぁ、パスタァーカ先っ生は今年から、教鞭を取られる新米先生と言う事なのでね、子どもたちへの教育方針などお話ししておかなきゃ、と思った次第でございますの。いいですか? パスタァーカ先っ生、子どもたちへの教育と言うのは、モンスターの対峙とは違うんですよ。どちらが悪いのかを見極めて、しっかり指導していただかないと。うちのエイダは大人しい子どもですから、言いたいことも言えなくて。あぁ、可哀想に。ですから、アタクシ、パスタァーカ先っ生にきちんとお話ししておかねば、と思いまして。勇気を振り絞り、この学校の理事のお仕事の合間に来ましたの。聞いてらっしゃるかしら? パスタァーカ先っ生? まさか理事と言う物を存じあげないかしら? 理事は普通のご家庭よりも何十倍、いえ、何百、何千、何万倍もこの学校に尽くしております。例えば、あの新校舎はアタクシが寄附をしたんですの。アタクシ共にとっては微々たる金額なのですけれども、校長先生がアタクシ共の教育に対する熱意を知ってくださって。そういう熱意のある選ばれた者だけが、この学校の理事となるんです。おいそれと誰もがなれる訳ではないのですよ。いいですか? パスタァーカ先っ生、ご指導はぜひとも公平にお願いしたいものですわ」
カロラの陳情は数十分続き、パスターカの体力と気力を消耗させた。
パスターカは居候先の、賢人であり魔法文官長官のナザの家に帰ると、同じくナザの家に住み、仕事をしている賢人で魔法文官副長官のサリと、魔法療養士で作家、そして親友のキトに話した。
「ちょっとお耳に入れたいことってさ、大抵はちょっとじゃなくて、たくさんなんだ。そして、こちらへの文句なんだよな」
への字口でボヤくパスターカに、サリとキトは頷いた。
「人はそういうものなんですよ」
「良い時ほど教えてもらいたいものだけど、得てして当たり前と見られて、言ってもらえないんですよね」
「そもそも教師が陳情まで聞かなきゃならないなんて、聞いてないぞ?」
「どの職種でも陳情は発生しますよ。私は毎日陳情を受けていますし。慣れですよ」
平然と言うサリに、パスターカは項垂れた。
慣れる気がしない……。
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