1

1/6
前へ
/21ページ
次へ

1

 でかい。  一目見たとき、そう思った。適当につけたテレビの画面越しでもわかる。  そのメンバーが歩いてくるとファンから黄色い歓声が上がる。マイクを口元に持っていく。艶めいた唇から言葉が発せられる。 「日本のミナサマ、ありがとうございマス。ここに立てて嬉しいデス。愛してマス!」  ありきたりな言葉だと思った。 「あ……」  でも、私の心には響いたんだ。  字幕に「セヨン」と出る。この人、セヨンって言うんだ。  清涼感のある声。スポーツ選手かと言いたくなるような、でかすぎる190センチの身長。ピンクの髪に黒のレザージャケット、黒スキニー。痩せているからどちらも似合う。  いいなぁ。 「それでは、韓国で話題のグループ、ヤンウンで『egg』。どうぞ!」  音楽番組の司会者が言う。  ステージが暗くなる。セヨンは一人だけでかすぎて、照明がなくても六人の中で飛び抜けていることがわかる。  ライトが彼らを照らす。キラキラとその光を跳ね返すアイドルたち。まるで、照明よりも彼らが輝いていると言わんばかりに。  そこからは覚えていなかった。  ただセヨンが……セヨン様がかっこいいというだけしか覚えていない。  殻を破ろう Let's start now!  今は そう すぐ過去になる  やるなら今だ チャンスはここに  その挑戦 見ているよ!  ぷに、と自分のお腹の贅肉をつまむ。昔から太っているとバカにされていた。もうだめなんだと諦めていた。  それでも。 「やるなら今だ」 「……そっか」  独り言を呟く。画面を見つめる。  セヨン様がソロで踊っていた。 「わ……!」  切れ長の瞳に画面越しに見つめられて、私は目を見開く。カメラが彼のウィンクを捉える。  なんて美しいんだろう。そして。  こんなに背が高くても、こんなにかっこよく踊れるんだ。  ふと私の頭に考えが浮かぶ。  できないかもしれないけど。だめかもしれないけど。もしかしたら……!  カレンダーを見る。今は八月の終わり。  間に合うかもしれない。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加