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でかい。
一目見たとき、そう思った。適当につけたテレビの画面越しでもわかる。
そのメンバーが歩いてくるとファンから黄色い歓声が上がる。マイクを口元に持っていく。艶めいた唇から言葉が発せられる。
「日本のミナサマ、ありがとうございマス。ここに立てて嬉しいデス。愛してマス!」
ありきたりな言葉だと思った。
「あ……」
でも、私の心には響いたんだ。
字幕に「セヨン」と出る。この人、セヨンって言うんだ。
清涼感のある声。スポーツ選手かと言いたくなるような、でかすぎる190センチの身長。ピンクの髪に黒のレザージャケット、黒スキニー。痩せているからどちらも似合う。
いいなぁ。
「それでは、韓国で話題のグループ、ヤンウンで『egg』。どうぞ!」
音楽番組の司会者が言う。
ステージが暗くなる。セヨンは一人だけでかすぎて、照明がなくても六人の中で飛び抜けていることがわかる。
ライトが彼らを照らす。キラキラとその光を跳ね返すアイドルたち。まるで、照明よりも彼らが輝いていると言わんばかりに。
そこからは覚えていなかった。
ただセヨンが……セヨン様がかっこいいというだけしか覚えていない。
殻を破ろう Let's start now!
今は そう すぐ過去になる
やるなら今だ チャンスはここに
その挑戦 見ているよ!
ぷに、と自分のお腹の贅肉をつまむ。昔から太っているとバカにされていた。もうだめなんだと諦めていた。
それでも。
「やるなら今だ」
「……そっか」
独り言を呟く。画面を見つめる。
セヨン様がソロで踊っていた。
「わ……!」
切れ長の瞳に画面越しに見つめられて、私は目を見開く。カメラが彼のウィンクを捉える。
なんて美しいんだろう。そして。
こんなに背が高くても、こんなにかっこよく踊れるんだ。
ふと私の頭に考えが浮かぶ。
できないかもしれないけど。だめかもしれないけど。もしかしたら……!
カレンダーを見る。今は八月の終わり。
間に合うかもしれない。
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