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「どうせK-POPなんてみんな同じでしょ。イケメン集めて、ダンスで魅せてさ。歌詞もみんなおんなじ」
「あはは」とさきは私を嘲る。
「……さきちゃんは誰が好きなの?」
怒りで唇が震えているのを悟られないように我慢しながら、私は聞いてみる。
「えー! 気になる? 聞いちゃう? 私はね、江口千聖くんが好き! 日本の! 日本人だよ!」
さきは頬を紅潮させてそう喋った。
ふぅん。
日本のアイドルだって、イケメン集めてるところは同じじゃん。ダンスは少ないし、歌詞は薄っぺらい。それなのに、どうしてそんなこと言えるのかな。
冷めた思考を悟られないようにしつつ、私は彼女の好きなアイドルに関して、あることを思い出した。
「今不倫疑惑のある、あの人?」
真顔で尋ねる。お返しだ。さきはすぐに不快そうな顔になった。
「ひっどいなぁ! 複数人から好かれるほど魅力があるってことじゃん。分からないの?」
「分からない」
「……へぇ。くみこちゃんの好きなセヨンって人も、そのうちボロが出るよ。今はデビューしたてだからそんな噂はないだろうけどね。どうせ学生時代に喧嘩したとか……」
はは、とさきは嘲笑する。顔に熱が集まるのを感じる。
「セヨン様をバカにしないで!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。目の前の相手は驚いた顔をした。
「セヨン様はね、身長高すぎて自分のこと嫌いなのに頑張ってるの! この前インタビューで言ってたもん! それは私も同じ。数少ない身長高い仲間なの! 頑張ってる人をバカにして何が楽しいの!?」
言い終えてからはっと気づく。相手が私を見下していることに。冷めた視線で私を見つめている。
「……そう。その人のこと様付けするくらい推してるんだ」
「それは……その……」
「バッカみたい。あーあ、くみこちゃんみたいなファンがいるから、新規が入ってこないんだよ。私みたいにしっかりしてないとね」
私は内心焦りながら心の中で首を傾げる。しっかりしていたか? 私と同類だと思うけど。
でもそんなこと言えない。怖くて言えない。この人に逆らったら、とんでもないことになる気がしているからだ。
初対面だけどわかる。このオーラは、この不安感は。中学の頃のアイツと同じ。この人は、きっと。
「じゃあね、くみこちゃん。私逆方面だから」
ひらひらと手を振ってさきは私から離れていく。
うるさい。うるさい。他人の推しをバカにするなんて。
早足でホームに向かう。眉間に力が入ってしまう。
これだけはわかる。さきは敵だ。
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