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処方箋を受け取り、薬局をあとにして地上に出るとすでに西日が差していた。きょろきょろと津木野ヒカリの姿を捜すも、とうに帰ってしまっているみたいだ。
ああ、残念だ――と黄色い落ち葉を踏みしめたとき、彩りの気配が頬を撫でた。奥底からふつふつと湧きあがる泡がはじけて、モノクロームの世界が、津木野ヒカリとの出会いを起点にして一秒一秒変容していく。
いつもと変わらない病院からの帰り道。寂れた商店街も、息苦しい電車も、無愛想なコンビニ店員も――なにもかもが神様によってもたらされた素晴らしい贈り物に見える。
世界はこんなにもかがやいていた。
これまでの俺には津木野ヒカリの存在が足りなかったのだ。
彼女が好きだ。愛している。
もう一度会いたい。そして次に会うときは怒った顔ではなく、笑顔をこちらに向けて欲しいなあと思った。
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