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「王よ! 王よ!」
「人の子が!」
「たくさんたくさん周りにいる!」
はしゃぐ埴輪達の声に、二人はキョロキョロと周りを見回す。墳丘のてっぺんであるこの場所は、エブリスタウンを見下ろすことができるほど小高い。しかし目を凝らしたところで、古墳の周りに人がいるかまでは判別できないのだ。
「では見えるようにしてやろう」
王のその一言で、二人の視界は一気に鮮明になった。埴輪達の言葉通り、見物人が堀の周りに押し寄せて瞬きすら惜しんで、皆一様に空を見上げ、感嘆を込めて口を開けるのが見えて胸が熱くなる。
「ゆうちゃん、綺麗ね……オーロラが生で見られるなんて一生無いと思ってたわ」
「本当に……しかもこんなに素敵だなんて」
感嘆で言葉少なくなる彼女達に、埴輪達も続いた。
「これぞ奇跡! 冬の夜空に舞う奇跡!」
「奇跡は成功! 大成功!」
王はふっと口元に笑みを浮かべ、小さな子供のようにはしゃぐ埴輪達を眺める。
「お主らもこれを奇跡と呼ぶか……二人共、もう良いぞ」
王は二人の手を離し、少女達の目をしっかりと見据えて頭を下げ、すぐに上げる。
「幽子、紫、お主らに礼を言う。そなた達が来てくれて奇跡を起こすことができた。人の子が喜ぶ様を見れるのは嬉しい。礼と言っては何だが
、半刻なら持たせられる故、そなた達もゆるりと見るが良い」
二人は少しだけ手伝っただけだと謙遜したが、こんな特等席でじっくりと極光を観察できる喜びに瞳を輝かせ、それぞれが感謝の言葉を述べる。そして古墳を覆っていた揺らぎが解消できたことに胸を撫で下ろし、空をゆうらりと踊るそれを王と埴輪達と談笑しながら鑑賞していたのだった。
そして来年からは冬のこの時期に古墳で極光のショーが開催されるようになり、エブリスタウンの冬の名物となったのだが、それはまた、別の話。
〈了〉
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