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異変
終礼が終わるチャイムが鳴り、帰るために教科書を詰める生徒もいれば、三々五々に話しながら教室を出る生徒もおり、にわかに教室がざわめいた。早めに鞄に教科書を詰め込んだ幽子は親友である紫の席に向かうが、彼女が難しい顔をしていたので、思わず具合でも悪いのかと心配になってしまう。近頃風邪を引く生徒をちらほらと見かけるからだ。
「ゆかりん、どうかした?」
紫は一拍置いて幽子を見上げる。どうやら考え込んでいただけのようで、幽子に向かって頷いて見せた。
「えっと……あのね、隣町に古墳があるでしょ?」
「うん……それがどうかした?」
幽子はエブリスタウンという隣町のバス停付近の古墳を思い浮かべる。確かあの古墳はいつ建立されたか、誰が眠ってるか、全てにおいて謎に包まれていた筈である。
「古墳が揺らいでるとかそんな話を聞いたの」
紫がひそひそと話すので、幽子もつられてひそひそ声で返した。
「揺らぐ……? もしかして霊が? 古墳なのに? 神社じゃないんだ」
霊が揺らぐというのは、神社の神様もしくは強い想いを抱いたままこの世を去った霊などが土地などから影響を受けて、その力が大きくなったり小さくなったりすることである。霊の力、すなわち霊力が大き過ぎたり小さ過ぎるとその土地で怪奇現象がしばしば起こるのだ。怪奇現象というのは専ら幽霊が通行人を驚かしたり、バカと書いた紙をバレないように背中に貼り付けたり、子供達に紛れて公園で遊んだりする程度なのだが、驚き過ぎた通行人が転んで肋骨にヒビを入れるなどの実害が出ることもあり、放置は好ましくないとされている。
霊が揺らぐことはそれほど珍しいことではないが、早めに対処しなければ街が怪奇現象塗れになって混乱の原因になってしまう。幽子と紫は、霊の揺らぎを解決している家の娘なのだった。やってることは治安維持と大差ないのだが。
「うん。だから今から一度古墳に行こうと思って。ほっとくと良くないかもしれないし」
「そうね。それなら私も一緒に行く」
幽子も紫もさっと表情を引き締める。深刻な事態になるかどうかは不明だが、揺らぎが判明した時点でさっさと手を打つ方が後々騒ぎにならないと判断したのだ。
二人の少女は足早に教室を出て下足室へと向かい、学校の近くのバス停でエブリスタウン行きのバスを待った。
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