異変

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バス停から降りた途端に、二人は古墳の方角から異変を感じ取る。以前紫とエブリスタウンに出かけた時は静謐(せいひつ)な霊力しか感じなかった筈なのに、今は不安と狼狽を強く感じたのだ。二人は古墳について手掛かりを集めるべく一周してみたが、古墳を解説している看板等もなく二人は肩を落とした。そしてとぼとぼと最初の場所まで戻ったその時である。 橋に架かっている立入禁止の札が左側のロープにぶら下がって冬風に揺られていた。 「……これ、さっきは切れてなかったよね?」 紫の言葉に幽子は顔を険しくして頷く。 古墳にしては珍しく、墳丘から堀りの上に古びた木製の橋が架けられているのだが、いつもは橋の入り口に横長の『立入禁止』の札がロープで繋がれて通せんぼをしている筈だというのに。 「うん……まさかロープが古いとかは……ないよね」 幽子はロープの断面に触れたがすぐに首を横に振る。朽ちたロープにありがちなポロポロと崩れ去るような手触りでないと気づく。何なら鋭い刃物で切られたようにきれいな断面をしていた。 「……違うね。誰かのいたずらな……わけもないか」 紫はぼんやりと呟くが、彼女は自分の言葉を否定するように首を振った。古墳が揺らいでいると聞いた矢先にこんなことが起こるなんて、十中八九古墳の主の仕業に他ならない。 「え……何、これ」 そして異変はまだまだ続く。幽子が立入禁止の札に触れると、それはあっさりとロープから外れ、彼女の手を離れたと思うと白い光に包まれて目の前に浮かび上がる。段々とそれは大きさを増やしていき、最終的には幽子の両手に降り落ちてきて、慌てて幽子はそれを掴んだ。 a181cd35-519a-4693-9b07-43ca9a607167 「読めないね、ゆかりん……」 「ほんとだ……」 A5サイズの何の変哲もない紙に書かれた真紅の文字は、おおよそ日本語とは思えない独特の字体であり、何ならアルファベットにも似ていない。ひょっとしたら古代文字なのかもしれないと思ったところで、不意に墳丘の方角からつむじ風が吹き荒れた。 咄嗟に顔を片手で庇う二人だったが、それも一瞬のことで、そのつむじ風は一転して二人の背中をぐいぐいと押し始めた。まるで墳丘の向こうから呼ばれているような心地がした紫はぼんやりとつぶやいた。 「行かなきゃ、この先に……放っておけないし」 幽子はそれに頷く。そして彼女達は切れたロープの先へと足を運んだが、次の瞬間視界が夜色の景色に包まれてしまった。
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