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祭礼
視界が奪われたと慌てた二人は目の前に思わず手を持ってきたが、何も視界を遮る物は存在せずにいくばくか胸を撫で下ろす。そして目が慣れてきたのかぼんやりと墳丘のシルエットが浮かび上がり、単純に暗くなっただけだと結論付けた。
「びっくりした……驚かされたのかと思った」
「そうね……でも自然に日が暮れた感じじゃない」
紫は自分の腕時計を一瞥したが、蛍光塗料が示すのは4時過ぎだった。今は12月だとはいえ、こんなに早く暗くなる道理は無い。
「日が早く暮れるだけなら害は無いと言えば無いけど、このあと何が起こるか分からないもんね……」
霊の揺らぎのパターンは無害なことが多いのだが、こうして空の色が急に変化することは珍しい。気象にまで影響を及ぼすことのできる神霊や霊が少ないからだが、こういう場合は厄介事もセットでついてくるのが常である。
「ゆうちゃん……あれ……」
紫が指差す方向にポツリと灯火が見えたのを皮切りに、ポツポツと墳丘をまばらに覆うように灯火が揺らめいた。そしてそれは黒い鏡のような堀にも十数個ほど現れ、水面にも同じ輝きを宿して揺れていた。
「……素敵」
水面に灯のともる墳丘と、堀そのものに浮かぶ灯が揺れているのはさながらイルミネーションか、もしくは星々の輝きにも見えた。
「ほんとだ……まるでお祭りみたい」
二人は手を繋いで水面に浮かぶ灯や墳丘の灯の揺れる風景を見ながら奥へ奥へと進んでいくが、まるで電話から聞こえるようなキーキーとした声が前方からして、二人は驚いて声の主の方角を見る。
「あっ! やっと来たやっと来た! こっちこっち! こっちだよ!」
墳丘からこちらに向かって、複数の影がぴょいんぴょいんと跳ねていた。ぞろぞろと橋の上に集まっていた、自分達の背丈の半分程度しかない彼らはあっという間に二人を取り囲んで、小さく飛び跳ねたりくるくると回る。仄暗い今でも彼らの形をはっきりと認識できるのは、きっと彼らが薄く発光でもしてるからに違いない。彼らは人型で目と口が丸く空いてるものや馬や犬や猫を象っているもの等様々だが、一つ一つじっくり見ると高さや細かな造型が微妙に違うのが興味深いところである。
「あなたたち……」
「埴輪、だよね?」
幽子の言葉を紫が引き継ぐと、一際大きな人型の埴輪は、えへんと胸を反らせて高らかに言う。
「そうなの! 我らは埴輪! いにしえの王に仕える誇り高き者! お二方、来てくれて嬉しいの!」
埴輪がしゃべってることよりも、まるで自分達を待っていたような口ぶりに、二人ははてと首を傾げる。
「来てくれて……? つまり私達を待ってたということ? 霊の揺らぎは古墳の主の仕業なの?」
幽子が思わず尋ねると、彼らは飛んだり跳ねたり回ったりしながら口々に甲高い声で話し始めた。
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