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「ご明察! お見事お見事! 我らが王が呼んでるの!」
「たいへん! たいへん! 困ったの!」
「我らが王が困ってる!」
「ずっと待ってた、待ってたの!」
「助けて助けて! お願いよ!」
埴輪の目を模した円が上弦の月と下弦の月を作り、45度に傾けて二人に擦り寄る。まるで悲しんでいるように見えた表情を見て、思わず頷いた二人はいくばくか声音を和らげた。
「私達も王に会いたいわ。私達だって、この状況を放って置きたくはないもの……ね、ゆかりん」
「うん。ゆうちゃんに賛成。元々私達は揺らぎを何とかするために来たんだから」
埴輪の表情がぱあっと明るくなった。目を模したまん丸な円が三日月を逆さまにしたようになったからそう見えただけであるが、きゃいきゃいと甲高く騒ぐ彼らを見たところによると、あながち間違いでもないのかもしれない。
「我らが王はこちらなの!」
「ついてきて! ついてきて!」
「さあさあこちらに! こっち来て!」
二つの埴輪は彼女達のスカートを摘み、二人に向かってぴょいんぴょいんと跳ねて見せる。
それ以外の埴輪達はくるりと背を向け、墳丘の方角に走り出した。
……と言っても埴輪の足は動かない。橋の上をすいすいと滑り、彼らの影がみるみるうちに小さくなっていくが、スカートを摘んだ埴輪達は、少女達に合わせてぴょいんぴょいんと跳ねながら墳丘へと導いた。
「あれ……墳丘ってどうやって登るの?」
橋の先には灯火が無く、ただ黒黒とした景色が二人を飲み込むように佇んでいるのみであり、不安に駆られて紫は呟く。
「心配ご無用! ご無用よ!」
「我らにドドーンとお任せあれ!」
二人に貼り付いている埴輪が応え、スカートから手を離した彼らは橋の先の墳丘の黒の前まで少女達を導き、足元でくるくると回り始める。
「さあさあ! こちらにこちらに来てちょうだい!」
「王の元へごあんなーい!」
彼らが言うが早いか、二人の目の前が眩いばかりの白に包まれた。
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