邂逅

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邂逅

少しずつ白が引いていくと、足元にぼんやりとした光が見えた。だがそれも小さくなってしまうと、小さく揺らめく橙色に照らされた石造りの壁に囲まれた教室と同じくらいの大きさの部屋の端にいることに気づく。その中央には人の身長程ある、黒黒とした細長い物が横たわっており、背を向けて腰掛けている長い影が石畳に落ちていた。 「王よ! 我らが王よ!」 「連れてきた連れてきた!」 「これで安心! 一安心!」 小さな子供のように飛んだり跳ねたりして騒ぐ埴輪達に囲まれ、影は彼らを撫でていたが、彼らの言葉を拾うとピタリとその手を止める。そしてややあってこちらに向き直った。その身に纏う陽炎か靄のような強い霊力と埴輪達と共に、そのまま高い靴音をさせてゆっくりと少女達の方へ歩みを進めるため、二人は思わず深く頭を垂れる。靴の先がちらりと視界に入ったところで足音が止まったが、同時に彼女達の心臓も止まると思われた。 (間違いない。この古墳の主……) 「よくぞ参った。唐突に隣町より呼び立ててすまぬ……相見えたこと、嬉しく思う……面を上げよ」 少女達の頭上に威厳のある落ち着いた声が降り落ちた。艶があり、若々しいハリのあるその声にいくばくか驚いた二人だったが、恐れいりますとだけ告げて顔を上げ、その人物を見るや否やドキリとして固まった。柳眉の下の切れ長の瞳が射抜くようにこちらを見ており、その口元が緩く弧を描いたからだ。 「我はここの主、ミカボシと申す。ここに人の子を呼ぶのは初めてだ。言葉が変なのは許せ」 いつの間にか威圧的な霊力は引っ込んでおり、余裕のできた二人は呆気に取られて声の主をまじまじと見る。古墳の主は矍鑠(かくしゃく)とした中年男性だとばかり思っていたからだ。 王の長い髪は上質な絹のように見目麗しく、中央で分けて束ねずに後ろに流していた。額に淡い朱色の鉢巻を締め、白い小袖のような上着に、薄いクリーム色の長い袴のような物を履き、首には管玉と呼ばれる翡翠色の細い筒状の石を連ねた首飾りを下げており、仄暗い中でもきらめいていた。 「この装束が珍しいか。存分に眺めると良いぞ」 二人は穴が開くほど彼女を見つめていたことを恥じ、申し訳ありませんとだけ口にして、どぎまぎする胸を押さえたが、王はころころと笑って首を横に振った。 「よいのだ……我相手に畏まることもないぞ。良かったらそなた達の名を教えておくれ」 言葉遣いそのものは厳しいが、柔らかな声音と微笑む彼女に二人は緊張をいくばくか和らげ、それぞれ名乗った。 「良き名だな。風流で優美で可愛らしい。それに何やら頭の切れそうな雰囲気……幽子、紫、我に力を貸してはくれまいか……我は奇跡の起こし方が知りたいのだ」 朱唇に乗せられた言葉は、二人を困惑の渦に落とし込むのに十分だった。
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