邂逅

2/2
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
(奇跡の起こし方……?) 幽子ははてと首を傾げる。奇跡なんて起こそうと思って起こせる物でもなさそうなものなのに。何か事を起こすのは簡単だが、奇跡と認定するのは起こした本人ではなく常に他者である。それも都合のいい偶然でなければ奇跡とは呼べまい。 紫も同様のようで困惑の色が濃かったが、思い切って王に質問をぶつけることにした。 「もしや空が暗くなったり、墳丘や堀に灯が踊ってたのは王の起こした奇跡なのですか」 「左様。この時期になると商店街で毎年小さな灯りを組み合わせて光らせているのを知ってたのでな。我の領域(古墳)に足繁く通う人の子達に喜んで欲しくて見様見真似でやってみたのだが……誰も見に来なんだ。来たのは呼び寄せたそなた達のみよ……」 王は文字通り頭を抱えて細く言葉を紡ぐ。本気で悩んでいる王には悪いが、二人は彼女が人々を混乱に陥れる意図がないことに心底胸を撫で下ろしていた。もし少しでも害意が見えたのなら、あの手この手で説得するか、王が満足するまで悩みや恨みつらみを吐き出せるために一戦交えたりしないといけないからだ。 「私は好きですけどね。古墳を灯火で飾るのは。イルミネーションというかお祭りみたいですし。ゆうちゃんは?」 「私も同感です。太鼓とか笛のお囃子があった方が人々も注目するとは思いますが、今はクリスマス間近で街中というか商店街がイルミネーションで溢れてますから夜は不利でしょうね……昼間に何か起こそうとは思わなかったのですか?」 王は残念そうに首を振った。 「我は夜を司る故に昼間は干渉が困難だ。というよりも昼間は我が寝ていたりする」 (夜だけ……なのね。奇跡が起こせるのは。冬の夜に起こる奇跡……何かしら) 「冬だから……流星群かしら」 「ゆかりん、それは先週に終わったよ。冬の夜なら花火もいいと思うのよ」 「それは年が明けた時よ。早すぎるわ」 こんな調子で二人はしばし頭を悩ませていたが、埴輪達が王の周りに集まり、甲高い声で王を励ましているのを見て気を紛らわせた。埴輪の一人の手の先に何か翠の物があるのに気づいた幽子は唐突にぽんと手を打った。 「あるじゃないの……冬の夜空に起きる奇跡が」 幽子の声に王のみならず、埴輪達も驚いたようで一斉にこちらを向いた。 「では聞こう」 王は訝しんで眉を顰めたが、幽子が詳細を話していくうちにひどく乗り気になってきて、それに当てられたのか、埴輪達も騒ぎ出していた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!