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凍空
「……というわけで空が見える所に案内して欲しいのですが」
「無論だ。埴輪達、お二方を案内して差し上げよ」
幽子の言葉に王が首肯して、2つの埴輪が彼女達の周りをくるくると回って飛び跳ねた。
「さあさあこちらに! お二方!」
「そのままそのまま! 動かない!」
埴輪の声が終ると、再び眩い光が二人を包んだかと思えば墳丘に移動していた。足元の淡い白が消え、目が慣れてくると、こちらに降り注がんばかりに星々が瞬くのが見えて思わず息を呑む。
「街中の明かりが無いとこんなに星が見えるのね……」
紫がうきうきとして天を仰ぐ。少女達と王は墳丘の一際高い所に埴輪達によって連れられていたのだ。遮るはずの木々はそこには無く、身を削がれるような寒さがあったが、これから起こることに期待を膨らませていた。
「王よ、私とゆかりんの手を握っていてください。私達がイメージしたものを直接伝えます。王はそのままそこに立って、霊力を天に向けて放ってくださいませ」
王を真ん中にして右に幽子が、左に紫が移動して二人はそっと王の白くて優美な手を握る。王の温かな手は周りを駆け抜ける氷の刃のような風をたやすく無効化して二人は息を呑んだ。
「了とした……お主らに任せる。埴輪達よ、二人をサポートせよ」
「合点合点承知の助なの!」
「お役目お役目承りました!」
「お二方、我らは何をしましょうか?」
埴輪達がぴょいんぴょいんと跳ねながら三人を取り囲む。
「今からすることをよく見て、感想とか教えて欲しいかな」
埴輪達がはしゃぐのを見届けて二人の少女は頷き、夜色を振り放け見れば先程合わせたイメージをゆっくりと展開させた。
(まずは古墳の上だけ……)
星々の瞬く夜色の空は一度夜が濃くなったように見えたが、墳丘を中心に淡い翠が灯ったかと思えば、それは輪を作ってゆっくりとそれを広げていく。
「なんとなんと!」
「紗のようだ!」
「空に帳が! 翠の帳!」
「淡い翠が踊ってる!」
「ゆうらり、ゆうらり舞ってるよ!」
埴輪達が素直に感嘆と驚愕を届け、それを受けた二人はさらにイメージを加速させた。古墳上空だけでなく、街中の空に光のカーテンを揺らめかせ、脈動するように展開させる。
「形が変わった! 広がった!」
「翠に碧に桃色も!」
「紗の帳! 紗の帳!」
埴輪達の言うとおり、最初は輪を作っていたそれは次第に形を解いていき、紗のカーテンが風に揺らめくように夜色いっぱいに広がり、翠に碧、桃色に紫の幾筋もの光明が明滅し、脈動しながら激しく動き出していた。
「ほう……このような麗しき光明は初めて見るな」
幽子と紫が代わる代わる教えてくれた夜空を踊るそれは、ミカボシの記憶にうっすらとあったが、それは赤くぼんやりしたものであり、当時の人々は凶兆だと騒いでいたのをぼんやりと思い出す。しかし夜空に展開されたそれは凶兆とは似ても似つかず、王は感嘆を込めて唸った。
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