29人が本棚に入れています
本棚に追加
つながり *良平*
仕事の帰りに本屋に行こうと歩いていると、目の前を結城さんが店に入って行った。
その後を入る。ストーカーか。いやでも自分も行くつもりだったし。
結城さんはビジネス関連の本を見た後、資格のテキストの本棚の前で足を止めた。見上げてじっと並ぶ背表紙を睨んでいる。
そっと横に立ってみた。やっぱりストーカーか。
集中しているのか、気づかない。思わず笑ってしまうと、二度見された。
「かっ、樫井さん。」
大きな目を驚きで見開いて俺を見上げる。徐々に顔が赤くなるのが可愛い。
「十分ぐらい前から横にいたんだけど、全然気づかないし。怖い顔をして本棚を睨んでるし。」
「えっ、恥ずかしいんですけど。」
結城さんの顔がカーッと赤くなったので、目を逸らせるように本棚を見た。
「なにか資格取るの?」
「いえ、見てただけなんですけど、なにか武器になるものが欲しいなあ、と。」
「ああ、まあね。今でもパソコン使ってるでしょ。IT関連なら取れるんじゃない。これとかならテキストだけで勉強できるよ。スマホで問題も解けるし。
社内のリスキリングプログラムは?」
「それも見てるんですけどねぇ。内容が偏っているんで。」
「IT系なら鈴野に聞けば……。」
途中まで言いかけて黙ってしまうと、結城さんは気まずそうに微笑んで俯いた。
「……じゃあ、あとはなにか趣味とか好きなもの?」
「趣味……。」
「好きなのは食べることだっけ?」
「もうっ。作るのも好きなんですよ。」
「へえ?」
「一人暮らしだとそんなに作らないですけど、友達が来た時とかちゃんと作ります。」
「ふうん……、そっか。」
あの男にも作っていたんだろうな。
最初のコメントを投稿しよう!