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「あの、さ。今読んでる本さあ……。」
「あ、はい。」
樫井さんがかぼちゃサラダを少しだけ取り皿によそいながら小さく呟く。
「世界が滅亡する話じゃん。」
「そうですね。」
夢を思い出していたからどきりとする。
樫井さんは鳶色の瞳をこちらに向けた。
「結城さんは世界が滅亡するかもしれない時、どうする?」
一瞬息が詰まる。
「私は……。私はとりあえず足掻きます。」
私は夢の中で、世界を滅亡させた。自分や聖女として選ばれた人たちの犠牲の上に成り立っている世界に絶望して。死に向かっていく私に歓声を上げている人々の笑顔に絶望して。
あのあと本当に世界が終わったのかは知らないけど。
「小説みたいに状況が全部わかってるといいですけど。わからないと足掻くこともできないかもしれませんけどね。」
「うん……。考えずに逃げて、後のことはどうなってもいいって短絡的な行動をするかもな。」
目を伏せている樫井さんをじっと見る。樫井さんはなぜ急にこんな話を始めたんだろう?
「私、夢を見たんです。」
「夢……。」
樫井さんが箸を止めて呟く。
「そういう夢です。結局、私は世界が終わる前に首を絞められて死ぬ夢なんですけど。
さっきはその夢を思い出してびっくりしたんです。夢なのに。あ、意味がわからないですよね。ごめんなさい。」
「……三矢じゃなくて?」
「はい。その夢、毎日見てたんですよ。毎日首を絞められて死ぬんです。だからトラウマみたいになってるんですよね。やけにはっきりしてたし。」
へへっと照れながら、ちらっと樫井さんを見ると目を大きくして驚いた顔をしている。
「樫井さん?」
「その夢って、いつ頃見てた?」
「あー、あの。異動してきたみなさんと受付の親睦会があったじゃないですか。あの親睦会の前一週間ぐらいですかね。」
樫井さんの目がますます大きくなる。綺麗な顔の人は驚愕の顔も綺麗なのだな、と思っていると、一番知りたかったことを話し始めた。
「首絞めていたの、たぶん俺……。」
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