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食事を終えてケインと別れ、エリクと二人になる。
「屋敷まで送って行くよ。」
「ありがとう。」
地元で近所に住んでいた同い年のエリク。首都のはずれ出身とは思えないほど綺麗な顔をしていて、おまけに優しくて昔からモテた。神殿から帰った私を遠くから見て噂をしたりケインのようにからかってくる友人たちの中、ただ一人昔のように接してくれた。
それだけで私はものすごく救われた。たった一人そういう人がいてくれたおかげで心を強く持つことができたし、エリクのおかげでだんだんと周囲に受け入れられたのだ。
エリクが騎士の試験を受けて合格した時には驚いたけれど寂しかった。でも合格した後にこう言ってくれた時には胸が熱くなった。
「サラが働いている屋敷の近くで仕事できたらと思ってさ。サラはしっかりしているようでちょっと心配になることがあるんだよな。」
結局エリクの職場は、私が働く貴族の屋敷から少し離れた首都の一番外側にある第三城壁の門の警備になったけど、心強いことに変わりはなかった。
そして、休みの日には時々会っている。……同じく騎士になったケインという邪魔者もいるけれど。
「サラ、三日後の婚礼式は休み?」
「うん、旦那さまや奥さまも式に列席するから、その準備が終わったら祭りを見に行ってもいいって。」
「そっか。じゃあね、神殿入り口の右側、十番目に俺が立ってるから。近衛と同じ制服なんだ。」
「わかった。絶対見える位置に行く。」
「終わったらご飯食べに行けるかな。うーん、次の日になるかなあ。」
婚礼式の後、事後処理に追われるかもしれないと言う。本来の近衛や皇宮騎士は街の片付けなんかやらないが、平民である自分たちは駆り出されるかもしれないと言う。
「でもま、手当が出るから奢ってやるよ。」
「やったあ。」
楽しい時間はあっという間。屋敷の前で手を振って別れた。
*
そして婚礼式当日。
お仕えする主人たちの準備をしてから使用人仲間と街に繰り出す。出たのが少し遅かったせいか、人の多さに圧倒され、なかなか神殿に近寄ることができない。
そんな中、次期皇帝の馬車が通り過ぎたようで大きな歓声が起こる。
いつのまにか仲間とはぐれた私は小柄な体を生かして隙間を縫って神殿に近づいた。
そしてさらに大きな歓声が起こり、空から白い花が降ってきた。熱気をほどよく冷ます風の中、ふわりふわりと落ちてくる。澄み渡る青い空に白い花が舞うさまは、夢のように美しい。けれど、私はなんだか冷めた気持ちで見上げていた。
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