第二話 東京へ

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第二話 東京へ

「寒っ」  トントントン 「はい」 「勇司開けるよ」  あたしはドアをゆっくり開けドアから部屋の中を覗く。  勇司は勉強を頑張ってる。  あたしはドアを閉めると勇司のデスクまでお盆を持って行く。 「勉強お疲れ様。夜食だよぉ」 「おっ、いつもありがとう」 「ううん。勇司頑張ってね」  あたしは勇司の背中にブランケットをかける。  部屋を出ようとすると勇司は振り向きあたしに声をかけた。 「みかん。いつも家事をやってくれてありがとう。みかんも勉強があるのに」 「いいのよ。お姉さんのお手伝いをするんでしょう」 「うん。そうなんだけど…。このままではみかんが倒れてしまうから、俺達、東京の実家で暮らさないか」 「どうして?」  勇司の言いたい事はわかる。  しかし、ここで甘えてしまったら、独立している意味がない。 「家事は家政婦がするから、みかんは勉強に集中できるだろう」 「考えてみる」  あたしは少し時間をもらう事にした。  あたしは昼間学校に行き、放課後帰ったら掃除、洗濯、ごはんと家事をこなして行く。勇司の夜食を作ってから、資格試験勉強をしている。ほとんど寝ていない生活と寒さもあって体調を崩してしまった。 「勇司ごめんね。逆に気を使わせちゃったね」 「何を言っているんだ。寝ずに資格試験勉強をしているんだろう。こういう時には休め」 「うん。ありがとう」  これ以上勇司に気を使わせる訳には行かない。  あたしの体調が良くなると、暫くの間東京に行き資格試験勉強に集中する事にした。 「勇司、お姉さんに何か持って行きたいんだけど何が良い?」 「姉貴にか。いらないと思うよ」 「あのね。物やお金の問題ではないのよ。気持ちの問題なの!」 「そう言うもんなのか」  勇司と街に出てお姉さんに似合う物を探した。 「これはどう?」 「これも良いと思う」  迷いに迷って貝殻が着いているイヤリングを選んだ。  準備万端。  あたしは庭に立ち家を見上げた。 『暫く留守にするね』  牧場を歩き牛達の世話をした。  翌朝出発だ。 「みかん。二度と帰って来ないわけではないから」  勇司はそう言うけれど、第二の人生を歩んできた場所だから。 「ねぇ、今夜えいちしない」 「いいけど。東京に行っても姉貴とは別々だし」 「まあ。いいじゃない」  ※  ちゅん ちゅん。 「おはよう」 「おはよう」 「朝食出来てるよ」 「ありがとう。9時には迎えに来るから」 「うん。準備OKだよ」  あたし達はお迎えのヘリに乗り込み。秩父を発った。  ヘリの窓から小さく見える秩父を見つめる。 『行ってきます』  秩父に小さく手を振り前を向いた。  ※  東京は久しぶりだった。  結婚式当日ぶり。2年前くらいだね。  会社兼お姉さんの自宅ビルの屋上にヘリが到着するとヘリのエンジンを切りドアを開けた。  勇司が先に降りてあたしに手を差し伸べた。 「ありがとう」 「気をつけてな」 「うん」  ビルの屋上に降り立つと風が冷たい。  あたしは勇司の手に引かれてエレベーターホールへ。 「あったかいね」 「ああ。大丈夫か?」 「うん。平気」  あたしは勇司の腕を抱きエレベーターを待つ。エレベーターは27階から上がって来る。  このエレベーターは役員専用エレベーターだ。2階から26階は止まらない。  チンと言う音と共にエレベーターのドアが開く。 「行こ」  エレベーターが28階に着くとドアが開き、ドアが見える。 「改装したの?」 「しょっちゅうしているよ」 「ん?」 「目の前が俺たちの家だ。隣が姉貴の執務室兼自宅。反対側が木城さんの執務室兼自宅だ」 「役員は?」 「テレワークをやってもらっている」  あたし達が来るから改装したのかなぁ。申し訳ないわぁ。 「姉貴に挨拶してからな」 「うん」  あたしはコートのポケットに入れている包み箱を指でなぞる。タイミングは挨拶の時だよね。  お姉さんの自宅のチャイムを勇司が押すとお姉さんの声が帰ってきた。 『はい』 「俺だ」 『…』 「あのみかんです。お姉さんおはようございます」 『みかんちゃん!今行くから待っててね』  ガチャと言う音がしてバタバタとスリッパの音もする。 「いつもながら雑だよなぁ」 「勇司」  あたしは小声で言いこ付いた。  ガチャガチャと音と共に玄関ドアが開き、お姉さんが顔を出した。 「みかんちゃん〜♡」 「お姉さん〜♡」  あたしはお姉さんと抱き合った。 「お姉さん。似合うか心配なんだけれど」  あたしはコートのポケットから包装してある小箱を出して、お姉さんに渡した。  お姉さんは小箱を受け取りニコッとした。 「ありがとう。気を使わせちゃったね。開けてもいい?」 「はい」  あたしはお姉さんが包みを開けて小箱の蓋を開けるのを眺めている。 「わぁ、可愛い。ありがとう♡」  お姉さんはあたしの手を握り素敵な笑顔をする。  喜んでくれて良かったぁ。 「おほん。入るぞ」  勇司は先に上がった。 「みかんちゃん上がって」 「は〜い」  お姉さんとあたしがリビングに入ると、勇司は食卓に着きコーヒーを飲んでいた。 「お姉さん、洗面所お借りします」 「どうぞ〜」  再びリビングに戻ると勇司はお姉さんに怒られていた。
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