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第三話 勉強
お姉さんは忙しそうだった。
「あ〜。疲れたぁ」
朝から勉強ずくめだと肩が凝る。あたしは自宅の玄関を開けて廊下に出ると『チン』とエレベーターの到着音がした。
エレベーターは玄関の目の前だ。エレベーターのドアが開くとお姉さんが降りてきた。
「みかんちゃん。こんにちは」
お姉さんはそう言うとパタパタとスリッパの音を響かして自宅へ向かって行った。
あたしはお姉さんの後をつけて行くと。
玄関のドアを開けっぱなしでスリッパのまま上がり廊下を走ってリビングに入って行った。
「お姉さん、大丈夫ですかぁ」
あたしは玄関から声を掛けた。
「みかんちゃん。勝手に上がって〜」
インターフォンから声が聞こえた。
え〜。お姉さんどう言う生活をしているの?
あたしは上がりリビングに入ると、お姉さんは手元にスマホを置きスプーンでケーキをすくいながらテレビを見ている。
『虹の向こうで』のオープニングソングが流れてきた。
「ケーキは冷蔵庫にあるよ」
あたしは冷蔵庫からケーキワンホールを取り出し食卓に着いて、箸立てからスプーンを取った。
「『虹の向こうで』見ているんですか?」
「欠かさずね」
お姉さんはアニメ『虹の向こうで』のエンディングを迎える頃にはケーキを平らげていて、スクッと立ち、洗面所に行くと歯磨き粉をつけて戻ってきた。
食卓に置いてある手鏡を見ると、口を拭き「玄関開けっぱなしでいいよ」と言い飛び出していった。
あたしはケーキを食べ終わるとお姉さんとあたしが使ったスプーンを洗いリビングをでた。
反対側の執務室兼自宅から木城さんが出てきた。
「木城さん」
あたしが手を振ると困った顔をしてこちらに向かってきた。
「夢ちゃんを知らないか?」
「先程ご自宅を出て行きましたが」
「はぁ。困ったもんだ」
「どうされたんですか?」
木城さんの話だと、お姉さんは会議中に抜け出したらしい。
「まあ、それでも仕事が回っているからいいのだが」
なるほど、バタバタしていたのは会議を抜け出し、『虹の向こうで』を見にきたからなのね。
「みかんちゃん、良かったら夢ちゃんの仕事ぶりを見るか?」
「はい。宜しければ」
お姉さんは仕事になると鬼の様に形相も変わり、バシバシ役員達を叱っていた。役員会議の後は各事業所に周り、ああだこうだ言い自宅に戻って来る。
リビングに入ると冷蔵庫からケーキを出して頬張りながらテレビを見ている。
これで仕事が回っているのだからすごい。
お姉さんは先代の社長が足元にも及ばないくらい経営のエキスパートらしい。社内では天才と噂されている。
はぁ。羨ましい。
勇司はどうなんだろう。
あたしは自宅に戻り、勇司の部屋をノックした。
「はい」
「あたしです」
「みかん入っていいよ」
あたしはドアを開けて勇司の部屋に入ると、勇司は鉢巻をしてひたすら勉強している。
「何か作ってこようか」
勇司はあたしに向き微笑んだ。
「みかん、せっかくだから家事は忘れて好きな様にすればいいよ」
「うん」
あたしはお姉さんの話をしてみた。
「なるほど。姉貴は母さんに似ているんだろうな」
「ん?」
「何をやっても上手く出来るんだろうな」
「そうだよね〜」
あたしは東京に来てお姉さんの凄さを勉強させてもらった。
つくづく足りないと思った。
あたしも頑張らなくちゃ。
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